⛽ とサワークルード供給の深刻なジレンマ
政府発表
2026年6月11日、高市早苗首相は中東情勢に関する関係閣僚会議で、7月の原油代替調達率が前年同月比で約100%(実質的に全量をホルムズ海峡迂回ルートで調達)に達する見通しを発表しました。これは、それまで約94%を中東に依存し、その93%をホルムズ海峡経由で輸入していた日本にとって、歴史的な調達構造の転換点です。
事実
2026年、日本はホルムズ海峡危機という前例のない事態に直面し、「量」としての原油調達先の多様化には一定の成功を収めました。しかし、その裏で、「質」に起因する深刻な構造的問題が顕在化しています。本稿では、入手可能な最新のデータと業界関係者の証言に基づき、軽油、航空燃料、灯油の価格見通しと、「製油所に適したサワークルードが事実上不足している」という現実について、奇譚なく解説します。
1. 軽油・航空燃料(ジェット燃料)・灯油の価格予測(2026-2027年)
▸ 価格に影響を与える根本要因
- 原料構成の変化:中東産サワークルードから米国産ライトスイートクルードへのシフトにより、軽油・ジェット燃料・灯油といった中間留分の生産量が構造的に減少しています。これは、日本の製油所が中東産原油の処理に最適化されているためです。
- 需給逼迫:イラン情勢を発端とする供給不安により、商業在庫は「あと数週間分」という極めて逼迫した状態にあります。IEAも同様の懸念を示しています。
- コスト増:代替調達ルートの長距離化や、スイート原油のプレミアム上昇(ブレント・ドバイEFSスプレッドの拡大)が製品価格に転嫁されます。
▸ 製品別価格見通し(2026年下半期〜2027年)
| 製品 |
2026年下半期の見通し |
2027年の見通し |
主な理由 |
| 軽油 |
高止まり(現状の高価格帯が持続) |
徐々に下落も、従来水準よりは高値 |
中間留分の生産量減少が直撃。物流・運輸業界への影響が懸念される。需要減少(不況による需要減少)(2027年予想)でやや緩和も、構造的な供給制約が価格を下支え。 |
航空燃料 (ジェット燃料) |
非常に高値(製品中最も高い水準) |
大幅な下落も、歴史的平均よりは高め |
供給制約が最も顕著。既にアジアで取り合い状態。バークレイズは紛争終結(現状見込み無し)で第3四半期に750ドル/トン、第4四半期に730ドル/トンへの下落を見込む。しかし需給構造の変化は長期化。 |
| 灯油 |
高値圏で推移 |
需要期(冬)に応じて変動も、高めの水準 |
軽油・ジェット燃料と同様に中間留分。冬季の需要増で価格が再び上昇するリスクあり。 |
📊 市場コンセンサス(2026年6月時点)
- ブレント原油:2026年平均予想は82ドル/バレル(華泰証券)、2027年平均は70ドル/バレルに軟化。
- ジェット燃料:バークレイズは2026年第3四半期に750ドル/トン、第4四半期に730ドル/トンへ下落すると予測。
- リスク要因:地政学リスクの再燃や備蓄補充需要(戦略備蓄の回復)により、価格の下値は固い。
2. 【最重要項目】製油所に適したサワークルードは本当に供給されていないのか?
結論から言えば、「日本の製油所が本来処理することを前提に設計された『中東産の特定サワークルード』の代替供給は、事実上、極めて困難な状況」です。これは単なる「量」の問題ではなく、「設備適合性」という物理的・経済的制約に起因します。
▸ 現実を証明する5つの根拠
-
稼働率の低下という証拠:日本の製油所の稼働率は、紛争勃発後の4月時点で約67.8%にまで低下しました。これは、代替原油が従来の操業ノウハウや設備に適合せず、能力を発揮できないことを示しています。
-
代替可能量の限界:エネルギー調査会社Rystad Energyのアナリストは、「日本は短期的に非中東産原油の配合比率を30~50%まで引き上げられる可能性があるが、中東供給を完全に代替することは困難」と明言しています。
-
製油所の設計上の制約:日本の主要製油所は、中質のサウジアラビア産原油などを処理することを前提に、1960〜70年代の高度成長期に建設されました。以来、需要減少を見越して大規模な設備更新は行われておらず、非中東産原油への対応には根本的な制約があります。
-
製品構成の歪み:米国産ライトスイート原油に切り替えると、ガソリン・ナフサの生産量は増える一方で、軽油・ジェット燃料の生産量が減少します。これは日本の需要構成(軽油・ジェット燃料需要が大きい)と逆行するもので、現在の価格高騰の主要因です。
-
業界幹部の証言:出光興産は「非中東系原油の処理には製油所設備に関する課題がある」と認めています。また、大手トレーダーや複数の製油所の原料担当者は、供給源の多様化(米国・アフリカ・アジア太平洋から5〜8%を目標)を進める一方で、経済性や適合性の課題が常に付きまとうと証言しています。
▸ では、日本はどう対応しているのか?
💡 現実的な対応策とその限界
- ブレンド(混合):中東産サワークルードと米国産スイートクルードを混合し、性状を調整。しかし、これは「つなぎ」に過ぎず、安定した品質と歩留まりを保証するものではありません。
- 紅海ルートの活用(事実上封鎖されている):サウジアラビアの紅海積み出し原油(Arab Super Lightなど)の調達を継続・拡大することで、ホルムズ海峡に依存しない中東産原油の確保を試みています。
- 備蓄の取り崩し:国家備蓄を活用することで、短期的な需給ギャップを埋めていますが、これは「時間稼ぎ」であり、根本的な解決にはなりません。
3. 総括:構造的ジレンマと今後の展望
日本は「量」としての原油調達先の多様化に成功しつつありますが、それは「処理できる原油の種類」という質的な制約を浮き彫りにしました。現在の状況は、以下のような構造的ジレンマを露呈しています。
- 調達量の確保(7月以降、前年比100%の見込み) ↔ 適した原油の不足(設備適合性の問題)
- 供給源の多様化(米国・中南米・アフリカ等) ↔ 製品構成の歪み(中間留分不足)とコスト上昇
このジレンマは、中長期的には、製油所の設備改修や新規投資、あるいは需要構造そのものの変化(EV化や代替燃料へのシフト)を加速させる可能性があります。しかし、少なくとも2026〜2027年にかけては、軽油・航空燃料・灯油の価格は歴史的な高値圏で推移し、「安い燃料」の時代は終焉を迎えたと言わざるを得ません。