【17歳にも解る】 日本の国債市場で何が起きているのか?
金利上昇と市場プレイヤー変化の詳しい説明


本稿は『【特集】日本の超長期債市場に構造変化 海外勢流入の影響【聞く経済ニュース】』(https://youtu.be/TlbLpyfvxgwの内容と各種補足報告から再構成した資料です。


1. 最近の国債入札結果:奇妙な現象

2. 市場の脆弱な状態

ルームバーグ(ブルームバーグ)の報道によると、入札結果は市場予想をわずかに上回り、事前の懸念ほど悪くなかったため、入札後は先物価格が上昇しました。

しかし、これは「最悪の事態を免れた」程度の反応であり、市場が非常に脆弱(もろく)な状態にあることを示しています。

3. なぜこんな状況になった?構造的な背景

質問者:
ではなぜこのような状況になっているのか構造的な背景から教えていただけますか?
回答者:
日本国債市場の構造を理解するには、まず誰が国債を保有しているかを把握する必要があります。

3-1. 国債保有者の構成(誰が持っている?)

質問者:
日銀が半分も持っているというのは異次元緩和の結果ですよね。
回答者:
その通りです。2013年以降の大規模金融緩和で日銀は国債を大量に購入してきました。しかし現在、日銀は量的引き締め(QT)を進めています。

3-2. 日銀の役割変化(最大の買い手が手を引く)

質問者:
日銀が買い手から売り手側に回るということですか?
回答者:
正確には、日銀は新規購入を減らしつつ、満期を迎えた国債の再投資を縮小しています。つまり、これまで最大の買い手だった日銀が市場から徐々に手を引いているのです。

3-3. 生命保険会社の役割変化(もう一つの大買い手が控える)

生命保険会社は、長期の保険契約に対応するため、20年や30年といった超長期国債を大量に購入してきました。これを「デュレーションマッチング」(負債と資産の期間を合わせる戦略)と呼びます。

質問者:
しかしその生命保険会社も買い控えているということでしょうか?
回答者:
はい。AEインベストの報道によると、生命保険会社の超長期国債購入額は、2020年以降のピーク時(月間約7000億円)から最近では約1000億円まで激減しています。実に85%以上の減少です。
質問者:
それほど劇的に減少した理由は何でしょうか?
回答者:
主に3つの要因があります。

理由① 規制対応がほぼ完了
2025年4月から適用される新しいソルベンシー(保険会社の健全性基準)に向けて、多くの保険会社がすでに「デュレーションギャップ」を概ね解消したことです。つまり、買う必要性が薄れたのです。

理由② 含み益が膨らんでいる
金利上昇によって、過去に安く買った国債に巨額の含み益(評価益)が発生しています。
・日本の大手生命保険4社の債権含み益は合計で8.5兆円~9.8兆円(約600億ドル)に達すると推定されています。
・明治安田生命の債権含み益は8倍に膨らみ1兆3860億円に達しました。

理由③ 流動性への懸念
日本生命は2016年以来初めて国内国債の保有を減少させましたが、その理由として「超長期債の流動性低下」を挙げています。
市場が薄くなると大口の売買が価格に大きな影響を与えるようになり、機関投資家にとってはリスクが高まります。

質問者:
日銀と生命保険会社という二大買い手が同時に手を引いている状況なのですね。ではその空白を誰が埋めているのでしょうか?

3-4. 新たな主役:外国人投資家(ヘッジファンド)

質問者:
しかし彼らの投資スタイルは生命保険会社とは根本的に異なります。どのように異なるのでしょうか?
回答者:
生命保険会社は「バイ・アンド・ホールド」、つまり買って長期保有するスタイルです。一方、ヘッジファンドや外国人投資家は短期的な利益を追求し、レバレッジ(借入金)を活用した戦略を取ることが多いです。代表的なのが「ベーシストレード」と呼ばれる手法です。
質問者:
ベーシストレードとは具体的にどのような取引でしょうか?
回答者:
ベーシストレードは、国債の現物と先物の価格差を利用して利益を得る裁定取引です。通常、価格差はごくわずかなので、利益を出すためには15倍から20倍もの高いレバレッジをかけます。問題は、市場が急変動した際にこのポジションを維持できなくなることです。
質問者:
レバレッジが高いと小さな価格変動でも大きな損失が出る可能性がありますね。
回答者:
その通りです。2025年4月のトランプ関税発表時には、まさにこの現象が起きました。住友三井トラストアセットマネジメントの稲勝俊氏は当時の状況を「パニック売り」と表現しています。レバレッジをかけたポジションの強制解消が連鎖的に発生し、利回りが急上昇しました。
質問者:
つまりヘッジファンドの存在がボラティリティ(値動きの激しさ)を増幅させているということですか?
回答者:
そうです。今、利回り上昇のスパイラル(悪循環)は次のように発生します。
1. まず、日銀の撤退と生命保険会社の買い控えで需要が減少します。
2. するとヘッジファンドは利回り上昇を見込んで「ショート」(売り)ポジションを構築します。
3. 利回りが上昇すると、既存の保有者に含み損が発生し、リスク管理の観点から売却を迫られます。
4. この売却がさらに利回りを押し上げ、ベーシストレードの強制解消を招きます。
5. そしてこのサイクルが繰り返されるのです。

4. 政策当局の対応(3者がバラバラ?)

質問者:
この状況に対して日本の政策当局はどのように対応しているのでしょうか?
回答者:
ここが今回の問題の核心部分の1つです。日本には日本銀行、財務省、金融庁という3つの主要な政策当局がありますが、それぞれが異なる優先事項を持って動いています。
質問者:
具体的に各当局はどのような対応を取っているのでしょうか?

4-1. 日本銀行(日銀)の対応

4-2. 財務省の対応

4-3. 金融庁の対応

質問者:
3者がそれぞれ別々に動いているように見えますね。
回答者:
まさにその点が海外アナリストから指摘されています。トリアムキャピタルの分析では、財務省は円の安定を望み、日銀は持続的な2%インフレの達成を優先しているなど、期間の優先事項の競合を指摘しています。

5. 海外の中央銀行はどう対応したか?(参考事例)

質問者:
海外の中央銀行はルジの危機にどのように対応してきたのでしょうか?
回答者:
比較として最も参考になるのは2022年の英国ギルト(国債)危機です。
・当時、英国年金がLDI(負債連動型投資戦略)で大きなレバレッジをかけており、国債価格の急落で連鎖的な売りが発生しました。
・イングランド銀行は数日以内に長期国債の無制限購入を発表し、明確に「金融安定維持」の使命を掲げて介入しました。
・欧州中央銀行(ECB)も2022年7月に「伝達保護手段(TPI)」を導入しています。
・米連邦準備理事会(FRB)も2020年3月の市場混乱時に1兆ドルの国債購入を実施し、その後「常設レポファシリティ」を設立しています。
質問者:
日本にはそのような仕組みがないということでしょうか?
回答者:
日本には非銀行市場参加者向けの緊急流動性供給ファシリティが存在しません。そして決定的に重要なのは、日銀が今、買い手に回るのではなく、現在も正味で売り手側にいるという点です。これは他国の危機対応とは正反対の状況です。

6. 金融機関への影響とシステミックリスク(連鎖的危機)

質問者:
ここで日本の金融機関への影響について詳しく伺いたいと思います。利回り上昇で含み損が拡大しているということでしたが、システミックリスクの観点からはどう評価されているのでしょうか?
回答者:
日本の金融機関、特に地方銀行と生命保険会社が大きな含み損を抱えているのは事実です。
・地方銀行全体では、2025年9月時点で約3.2兆円(約213億ドル)の含み損を計上しています(2024年3月から260%増加)。
質問者:
2023年のシリコンバレー銀行(SVB)の破綻を思い起こさせる数字ですね。
回答者:
確かにその懸念は自然ですが、いくつかの重要な違いがあります。ステートストリートグローバルアドバイザーズが分析しているように、日本の状況はSVBや英国LDI危機とは構造的に異なります。
質問者:
具体的にどのような違いがあるのでしょうか?
回答者:
第1に、日本の生命保険会社は一般勘定での国債購入にレバレッジを使用していません
第2に、負債デュレーション(保険契約の平均期間)は通常、資産デュレーション(国債などの平均保有期間)を上回っています。つまり金利上昇は資産側で含み損を生む一方、負債側の現在価値も減少するため、資産へのネットの影響は限定的です。
第3に、日本の保険会社の規制資本計算には含み損益が含まれています。SVBの場合、含み損は規制資本から除外されていたため、見えにくくなっていました。日本生命の経済価値ベースのソルベンシー比率は222%で、規制上の最低水準100%を大きく上回っています。
質問者:
では現時点ではシステミックリスクは限定的と考えて良いのでしょうか?
回答者:
ステートストリートグローバルアドバイザーズは、「グローバル金利への波及懸念は過大評価されているようだ」と述べ、国債市場の弱さは財政持続可能性の根本的な評価ではなく、テクニカルな需給不均衡を反映していると分析しています。日本は国債の約90%を国内で保有しており、家計金融資産は国家債務のほぼ2倍に達しています。

7. グローバルな波及経路

質問者:
しかしグローバルな波及経路は存在するのではないでしょうか?
回答者:
その点は非常に重要です。日本は米国債の最大の外国保有者であり、その保有額は1.06兆~1.13兆ドルと推定されています。ここに波及の直接的な経路があります。
質問者:
具体的にはどのようなメカニズムでしょうか?
回答者:
主に2つの経路があります。
第1は、エンキャリートレード(円キャリートレード)の巻き戻しです。
・推定で約4兆ドルの資金が、低金利の円で調達され、高金利の海外資産に投資されています。
・日本の国債利回りが上昇し、為替ヘッジ後でも魅力的なリターンが得られるようになれば、この資金が日本に還流する可能性があります。
・現在、30年日本国債は、ヘッジ後で欧州投資家に対してドイツ国債より約160ベーシスポイント(bp)、米国投資家に対して米国債より約215bp高い利回りを提供しています。このスプレッド(差)が縮小すれば、日本の投資家が米国債から資金を引き上げるインセンティブが高まります。
第2は、市場心理の連鎖です。
・弱い日本国債の入札結果が、米国債の入札直前に発生すると、グローバルに同期した長期債の売りにつながることがあります。

8. 歴史的事例:2003年の「バーショック」

質問者:
ここで歴史的な観点から今回の状況を整理していただけますか?
回答者:
日本国債市場で最も参考になる歴史的事例は2003年の「バーショック」です。
・当時、10年国債利回りがわずか18営業日で72ベーシスポイント上昇しました。
・原因は、銀行のリスク管理モデル(バリュー・アット・リスク:VaRモデル)が同時に売りシグナルを出したことでした。金利上昇でVaR値が上昇し、リスク枠を超えるために売却を余儀なくされ、その売りがさらに金利を押し上げる連鎖が発生しました。
質問者:
今回の状況との類似点と相違点は何でしょうか?
回答者:
類似点は「テクニカルな要因による売りの連鎖」という構造です。相違点としては、2003年当時は国内投資家が95%以上を保有していましたが、現在は日銀が46%を保有し、外国人投資家の存在感も大きくなっています。

9. 今後の見通し:2つのシナリオ

回答者:
ですから、2026年上半期について2つのシナリオを提示したいと思います。

9-1. ベースシナリオ:構造調整の継続

9-2. 第2のシナリオ:ストレスの深刻化

10. 市場参加者として注目すべきポイント

  1. 第1に、入札における倍率(3.0倍を継続的に下回るか)。
  2. 第2に30年国債利回りの動向(急速上昇は悪循環のサイン)。
  3. 第3に為替相場(急激な円高、特に1ドル130円方向への動きは資金還流の兆候)。
  4. 第4に地方銀行の含み損の動向

11. 総括と会話

質問者:
ありがとうございました。えっと、正直なところ今回の話かなり複雑で頭の整理が必要ですね。
回答者:
そうですね。結局のところ、30年間ずっと超低金利だった市場が、やっと普通の金利に戻ろうとしている過程で、今まで機能していた仕組みが全部ガタガタになってるって話なんですよね。
質問者:
環境が全く違うものになってますもんね。生保が買わなくなった理由も考えてみれば当然というか、ずっと金利低いから仕方なく長い債券買ってたわけで、もう必要な分は買い終わっちゃったと。で、その代わりにヘッジファンドが入ってきてるわけですけど、彼らは長期保有する気なんてさらさらないですからね。レバレッジかけて短期で稼ごうとするから、ちょっとしたことで相場が乱高下する。これ市場構造として健全とは言いがたいですよ。
回答者:
色々な思惑があらゆる商品に入り込む時代ですから、教科書を書き換えていくしかないですね。そんな中で火消し役をしなきゃいけない日銀は大変ですね。インフレ目標達成のために利上げしたいけど、やりすぎると国債市場が荒れる。でも荒れたからって買いに回ると正常化が進まない。上田さんにちょっと同情しちゃいます。
質問者:
明日も最新の情報をお届けします。チャンネル登録と高評価をよろしくお願いします。それでは今日も良い1日になりますように。

※ この解説は、提供された原文の内容を全て含み、構造を整理し、説明を加えたものです。投資行動を推奨するものではなく、情報提供を目的としています。