ホルムズ海峡封鎖から約一年。原油価格は1バレル150ドルを突破し、日本経済はスタグフレーションという名の長期消耗戦に突入していた。大和総研の試算では、中東からの輸入が10%減少するだけでマイナス成長は不可避であり、現実にはそれが20%以上に達していた。国民の不満はエネルギー価格への怒りではなく、「なぜ東シナ海に眠る年間LNG輸入量に匹敵する資源を開発しなかったのか」という自責の念へと変容していた。
政府はついに決断する。東シナ海での鉱業権を再設定し、海上保安庁と自衛隊による実効支配を開始する。だがそれには代償が伴う——中国はすでに20年にわたって掘削施設を日中中間線のすぐ西側まで増設しており、日本の資源を吸い上げるためのA2/AD(接近阻止・領域拒否)能力を完成させている。戦わずして資源を放棄するか、戦って奪還するか。日本は後者を選んだ。
しかし問題がある。戦うための装備が、圧倒的に不足しているのだ。
日本の防衛力は「抑止」のために設計されてきた。しかし、ホルムズ危機が示したのは、抑止が破れたときの継戦能力の脆弱さである。防衛力整備計画(令和5〜9年度)は総額43兆円の投資を掲げ、スタンド・オフ防衛能力の強化を最優先事項と位置づける。2025年度の防衛予算は8.5兆円、2026年度は9.04兆円に達し、GDP比2%という節目を突破した。しかしこの予算増は長期の備蓄ではなく段階的な整備に向けられてきた。ミサイルは年間数十発から百数十発単位で生産され、戦闘ドローンの国産化率はわずか3割に過ぎない。
2025年12月、防衛省は12式地対艦誘導弾能力向上型の開発完了を発表した。このミサイルは折りたたみ式の主翼とターボファンエンジンを採用し、射程は従来の200kmから900km以上に延伸された(最終的には1500kmを目標とする)。ステルス形状による低RCS設計も施されており、日本が実戦投入できる唯一の長距離スタンド・オフ兵器である。防衛省は2023年から量産に着手し、2026年から納入を開始する予定だった。報道によれば、日本政府は中国とのミサイルギャップを埋めるために1000発以上の国産巡航ミサイルの保有を検討している。しかし肝心の年間生産能力は極めて限られている。
ウクライナ戦争は、ドローンが現代戦のゲーム・チェンジャーであることを決定的に証明した。偵察・監視から直接攻撃、対地・対艦攻撃に至るまで、ドローンは低コストで高効率の非対称戦力を提供する。ロシアはイラン製シャヘッドドローンを年間数千機調達し、ウクライナは国産の海軍ドローンでロシア艦隊を繰り返し撃破した。日本の対応は著しく遅れた。
2025年11月の衆院安全保障委員会で、防衛省は自衛隊が保有するドローンの国産化率が約3割であることを認めた。つまり大多数が中国製を含む外国製品に依存している。2026年度予算では無人アセット防衛能力の構築に約2800億円が計上されたが、年間製造能力の公表情報は極めて乏しい。現実的に一年後に実戦配備可能なドローン戦力は以下のとおり:
一年後(スタグフレーション開始から約18ヶ月後)に日本が中国と全面的に戦闘する覚悟で挑んだ場合、どれだけのドローンとミサイルを製造・配備しなければならないのか。
| 任務 | 必要数 | 根拠 |
|---|---|---|
| 東シナ海の中国A2/AD拠点の無力化 | 300~500発 | 中国は東シナ海沿岸に約20箇所の対艦ミサイル基地を構える。各基地に10発程度必要 |
| 中国海軍艦隊への対処 | 400~600発 | 東シナ海に常時30隻以上の艦艇を展開。艦隊規模と抗堪性から複数発の命中が必要 |
| 予備・再装填 | 200~300発 | 戦闘初日から数週間の消耗を見込む |
| その他(地上目標・インフラ) | 200~300発 | 補給線・司令部・防空レーダーなど |
合計:1,100~1,700発のスタンド・オフミサイルが必要。これは日本の年間生産能力の5~10年分に相当する。
| 任務 | 必要数 | 根拠 |
|---|---|---|
| 海洋監視・目標捕捉(偵察型) | 100~200機 | 東シナ海全域の常時監視には最低50機以上、交代制で運用 |
| 対艦攻撃(攻撃型) | 2,000~5,000機 | 中国艦隊の防空網を飽和させるには囮も含めこの規模が必要 |
| 対地攻撃(補給線・施設) | 1,000~2,000機 | 島嶼部の対空レーダーやミサイル陣地を無力化 |
| 予備・訓練 | 1,000~2,000機 | 継戦能力維持のための予備ストック |
合計:4,100~9,200機の戦闘用ドローンが必要。ウクライナ年間調達の1/20~1/10だが、日本の生産能力からは夢の数字。
この条件が戦略分析に与える影響は計り知れない。固体燃料ロケット(エプシロン)が完成していないということは、日本が弾道ミサイルを実戦配備する道が事実上閉ざされていることを意味する。弾道ミサイルは巡航ミサイルよりも速度(マッハ10以上)、生存性(発射~着弾までの時間が短い)、ペイロードで優位だが、エプシロンが未完成の現状では、中国のA2/ADの「穴」を突く高速・高高度のスタンド・オフ兵器を欠く。12式能力向上型は亜音速巡航ミサイルであり、中国の防空網を突破する能力は限定的である。極超音速滑空弾も開発途上であり、一年後の実戦投入は絶望的である。
日本が中国と対峙する上で最も必要なのは、応急的な戦力ではなく構造的な製造能力である。しかし後者は、過去20年間の政治的な放置の結果、この危機の時点では間に合わない。
もし日本が一年後に「本気で挑む」覚悟を決めるならば、以下の必須条件が満たされなければならない。しかし現実には、ほぼすべてが満たされないだろう。
日米同盟は存在するが、米国は日本の「資源のための戦争」に自らを巻き込まない。トマホーク納入遅延が示す通り、米国の優先順位は自国の戦略的利益であり、日本のエネルギー危機ではない。アラスカ産原油の増産に向けた日本の「投資」は、米国にとってのビジネスチャンスであって、軍事同盟としての支援ではない。
中国は東シナ海において、J-20ステルス戦闘機による制空権、地上発射型長距離対艦ミサイル(DF-21D、DF-26)、艦隊防空網、水中・水上UAV監視網という多層防御を構築している。一年後に準備できる日本のミサイル・無人機戦力では、これらの層をすべて突破することは不可能であり、せいぜい一部の局地的な打撃に留まる。
以上のように、一年後に日本が中国と戦うために必要なドローン・ミサイル戦力の整備は、産業的にも時間的にも現実的ではない。12式能力向上型の年間生産能力は約50〜200発であり、5〜10年かけてようやく1,000発台に到達する。ドローンの国産化率は30%に過ぎず、量産ラインの整備には数年を要する。エプシロンは未完成であり、弾道ミサイルによる高速打撃の選択肢は存在しない。
では、この事実を踏まえた上で、日本に残された選択肢は何か。このレポートが提起する「開かれた問い」はこうだ。
その答えは、このレポートの中で既に示されている。問題は、この分析を生かすか殺すかは、読者の選択と、国民全体の選択に委ねられている。