ウィルカーソン大佐とグレン・ディーセンの経歴
本稿は、元米国国務長官首席補佐官であるCol. Larry Wilkerson(ラリー・ウィルカーソン大佐)と、Glenn Diesen(グレン・ディーセン)氏の対談を基に再構成された資料です。大佐は長年にわたり米国軍および外交政策の最前線に立ち、冷戦後の世界秩序の変容を鋭く分析してきた人物です。
導入とゲスト挨拶
グレン・ディーセン氏が司会を務め、「お帰りなさい。本日はローレンス・ウィルカーソン大佐にお越しいただきました。大佐は元米国国務長官首席補佐官でいらっしゃいます。本番組に再びご出演いただき、誠にありがとうございます」と迎え入れます。
ウィルカーソン大佐はユーモアを交え、「ご一緒できて光栄です、グレン。ここはどこでしたか、また来られて嬉しいですよ。ノルウェー? スウェーデン? まあ、同じようなものです。同じです」と応じました。
イラン停戦の現状評価 ─ 既に崩れ始めている現実
ディーセン氏が「現在停戦が成立しています。しかし、それは既に崩れ始めているように見えます」と指摘。レバノンを巡る論争が重要な構成要素となっていると述べ、大佐の見解を求めます。
大佐はイラン特有の課題として、通信手段の多くが破壊されたため、遠隔地の部隊への伝達がバイクや車による伝令に頼らざるを得ない点を強調。「その期間がさらに長引く可能性がある」と指摘しました。
ネタニヤフのレバノン戦略と和平の最大の障害
大佐は「ビビ・ネタニヤフにはレバノンでの行動を停止する意思が全く見られません。現在、彼は一日あたり百人ほどの民間人を殺害しています。ヒズボラの戦闘員ではなく、民間人です」と厳しく批判。
イスラエル国防軍内部からも「これは良くない、我々はこれに勝利していない」との大尉たちの進言があるにもかかわらず、ネタニヤフは目につくものを徹底爆撃で応じていると述べ、ベイルートやレバノン全土の建物・施設が標的となっている実態を詳述しました。
和平への最大の障害は、ネタニヤフのレバノン継続攻撃と、イランの「レバノン停戦がなければ全て白紙」という明確な立場である。
NATOの終焉と米国の離脱可能性
ディーセン氏がジョー・ケント氏のNATO離脱に関する発言と、トルコ・イスラエル衝突時の米国対応を挙げ質問。大佐は断言します。
トランプ氏の性格(決定的ではなく気まぐれ)を考慮し、正式宣言はないものの、実質的な離脱は確実に起こると予測。ウクライナ危機が「心臓に短剣を突き刺した」致命傷であり、ジョージ・H・W・ブッシュ以降のロシア冷遇政策(クリントン時代の爆撃など)がその遠因であると分析しました。
米国のイスラエル離反と「沖合均衡」への回帰
大佐は「イスラエルは我々の道具であって、その逆ではない」と明言し、18〜24ヶ月以内に「不可抗力的な離反」または「我々はお前たちとは終わりだ」という明確な離反が起きると予測。億万長者によるロビー活動も無力化されると述べました。
今後は「沖合均衡(オフショア・バランシング)」──ユーラシア大陸から直接介入せず、海上から同盟国を支援して地域均衡を維持する戦略──への回帰か、完全撤退かのいずれかになると強調。空母の脆弱性(無人機・高速ミサイル時代)を挙げ、「太平洋の千マイルラインより内側には近づかない」との現実を指摘しました。
南西アジアにおける地上プレゼンスの終焉と世界秩序の解体
大佐は2002〜2003年のミレニアム・チャレンジ戦争ゲームを引用し、南西アジア・レバント・北アフリカでの米地上プレゼンス終焉と、ユダヤ人国家としてのイスラエルの最終的終焉を予測。日本との戦略的結びつき(ホルムズ海峡経由の石油)が唯一の残存利益であるが、それも危うくなっていると述べました。
韓国からは「ここから出て行け」という声が上がり、全ての戦後枠組みが解きほぐれつつあると分析。
コリン・パウエルの1989年予見 ─ 有能な指導者の不在と混沌
1989年にパウエルが語った言葉を引用:「ラリー、彼らは皆いなくなってしまった。…世界は大きく変わるだろう。そしてお前はそれを気に入らないだろう、ラリー。」
大佐はパウエルの懸念を詳述。H・W・ブッシュ時代からのロシアとの関係修復努力が妨害され、記憶の脆弱性により人々が団結できなくなる「混沌」を予見していたと説明。自身も「彼は正しかった」と結論づけました。
容赦ない権力移行 ─ 中央アジア・ユーラシアへの軸移動
大佐は「かつて西側に向かいアメリカを作り上げた主軸が、今度は逆方向へ戻っていく」と指摘。ドゥシャンベ、サマルカンド、タシケントを経由して新疆ウイグル自治区へ至る軸が鍵であり、パイプライン完成により南北方向のエネルギー流動が地域経済を巨大化させると予測。
中央アジア諸国の驚異的成功(豪華ホテルなど)を挙げ、50〜75年後のエネルギー移行期に世界で最も重要な位置を占めると強調。一方、南西アジア・インド南縁部では中国が米撤退後に二度と戻さないよう手を打つと警告しました。
陸路対海上覇権 ─ 一帯一路とマッキンダーの逆襲
中国がイランで爆撃されている鉄道は、一帯一路の最終南陸路であり、世界商業取引の40%を陸上に移すものだと分析。「我々は海上覇権という点において廃業に追い込まれる」と明言。
ディーセン氏が「ハルフォード・マッキンダーの逆襲」と評すると、大佐は同意。ポルトガル人が商業輸送で高額請求した結果陸路に追い出された歴史を重ね、現在の米国も同じ運命を辿ると述べました。
プーチンの戦略的選択とロシア・中国の多方向性
北極海氷の急速融解(4〜5倍速)により、ロシアが世界最長の航行可能海岸線を得る可能性を指摘。プーチンは陸上大国から海洋大国への転換も視野に入れ、中国を除く世界最大のランドパワーでありながらシーパワーにもなる選択を迫られていると分析。
中国の海洋権益(世界最大の遠洋漁船団6000隻、南極オキアミ漁など)を強く擁護し、「陸軍軍人すぎる」批判をかわしました。ロシアは東西南北を同時に見据え、トランプ氏との関係を維持しつつ複雑な地政学に対応していると評価。
対立ではなく融和 ─ トゥキュディデスの罠を避ける道
大佐は「この権力移動には、戦うのではなく、融和しなければなりません」と強く訴えました。
米国は19世紀・20世紀とは異なり、中国もロシアも海洋を譲らない。対立ではなく共存を学ばねば、ヨーロッパは破壊され、世界全体が滅びる。