中国の素材支配戦略

レアアースから竹プラスチックまで — なぜ中国は「材料の支配」を狙うのか

みなさんは、スマートフォンや電気自動車、あるいは普段使っているプラスチック製品が、どこから来ているのか考えたことはありますか?
実は、これらの製品に欠かせない「レアアース」や「リチウム」などの重要素材の精製工程のほとんどを、中国が握っています。

ホルムズ海峡(ペルシャ湾とインド洋をつなぐ、世界で最も重要な航路のひとつ)の不安定化や、米中対立の激化を受けて、中国は「素材」そのものを支配する戦略を本格化させています。
このレポートでは、中国がなぜ素材の支配を目指すのか、それが私たちの生活や世界経済にどう影響するのかを、できるだけわかりやすく解説します。


【ポイント①】中国は「素材のサプライチェーン全体」を掌握している

中国が狙っているのは、単に「資源を買い占める」ことではありません。
「鉱山での採掘」→「精製・加工」→「部品や製品の製造」→「最終的な販売」まで、すべての段階を自国でコントロールすることです。

これは数十年にわたる国家ぐるみの計画であり、以下の要素を組み合わせたものです。

【重要】

結果として、他国が簡単に真似できない「垂直統合型」の産業システムができあがっています。


【ポイント②】なぜ中国はここまで強いのか?

中国の強みは、単なる「鉱山の多さ」ではありません。
本当の強みは「精製(加工)技術」にあります。

【数字で見る中国のシェア(世界全体に占める割合)】
・レアアースの精製:約90%
・リチウムの加工:約60%
・コバルトの精製:70%超
・黒鉛の加工:約80%
・NdFeB(高性能)磁石の生産:96%

たとえば、オーストラリアにはリチウムの鉱山がありますが、それを「電池に使える高純度の材料」に加工できるのは、主に中国だけです。つまり、中国は「原料を買う」のではなく、「原料を価値ある製品に変える力」を握っているのです。

「精製には、ナノメートル(1mmの100万分の1)レベルの制御が必要で、これは非常に高度な技術です。中国はこの分野で世界をリードしています。」

【ポイント③】中国がとっている具体的な戦略とは?

(1) 国家主導のルール作り

2026年5月、中国は重要鉱物の採掘・加工・備蓄に関する法律(79条からなる包括的なもの)を制定しました。これは単なる経済政策ではなく、「国家安全保障」の問題として位置づけられています。

(2) 海外投資(1,200億ドル=約18兆円規模)

2023年以降、中国企業は海外の鉱山や精製工場に1,200億ドル以上を投資しています。
対象はリチウム、銅、ニッケル、レアアースなどです。さらに、電池工場やEV工場などの「下流」部門にも2,200億ドル(約33兆円)を投じ、完全な産業連携を築いています。

重要な転換: 中国は従来の「収奪的」な一帯一路モデルから、より協力的な枠組みへと移行し、長期供給契約と引き換えに、ホスト国政府と提携して現地の加工施設とインフラを構築しています。

(3) 輸出規制を「武器」として使う

2024年12月、中国は米国に対する重要素材の輸出を禁止しました。これは過去の対日レアアース輸出制限(2010年)ガリウム・ゲルマニウム規制(2025年)と同じパターンです。

ただし、専門家は「中国のレアアース優位性=絶対的な強み」ではないと指摘します。その強みは、低い人件費や緩い環境規制に依存している面もあるからです。


【ポイント④】新しい素材「竹プラスチック」の可能性

中国は石油に頼らない「次の素材」として、竹から作るプラスチック(BMプラスチック)を開発しています。

【竹プラスチックの特徴】
・原料は100%竹
・土の中に入れると50日以内に分解される
既存のプラスチック製造機械がそのまま使える
・環境に優しく、石油依存を減らせる

2022年には中国政府が「竹をプラスチック代替品に」という国家プロジェクトを始動
2023年には3カ年行動計画を発表し、現在では15,000種類以上の竹製品が開発され、年間の産業規模は5,200億元(約10兆円)に達しています。

中国は世界の竹輸出の30〜70%を握っており、この強みを活かして発展途上国にも竹製品を広めています。


【ポイント⑤】「ナノスケール」の技術力が中国を支えている

中国の素材支配は「経済」だけでなく「科学技術」の面でも強力です。

分野 中国のシェア 技術的特徴
太陽光パネル(TOPCon型) ウエハー生産の80%超 1〜2ナノメートル(nm)のトンネル酸化層
LFP(リン酸鉄リチウム)電池 世界の蓄電システムの90%超 2〜5ナノメートルの炭素コーティング
ペロブスカイト太陽電池 世界の特許の76% ナノ構造化された界面
レアアース磁石(NdFeB) 世界の96% 原子レベルの粒界(粒と粒の境界)制御
素材科学の説明はナノスケールで展開される。」

2014年から2023年にかけて、中国の研究者は世界の科学論文増加分の半分以上を占めました


【ポイント⑥】これが世界に与える影響とは?

中国は、EU(欧州連合)が「戦略上重要」と指定した素材の約半分について、採掘・精製能力の70%以上を握っています
これらの素材は、スマートフォンやEV、通信衛星、レーダー、ドローン、ミサイル、潜水艦、戦闘機など、まさに「現代社会の根幹」を支えるものです。

つまり中国は、「供給の遅延」「価格の高騰」「供給そのものの停止」を通じて、世界のサプライチェーンを大きく揺さぶる力を持っているのです。

一方、米国やEUも「鉱物安全保障パートナーシップ」や「重要原材料法」など、中国への依存を減らす動きを進めています。
ただ、中国の規模と統合度を再現するには、数年どころか10年以上かかるとも言われています。

構造的優位性: 中国の支配は、国家の方向性と民間企業の実行速度を組み合わせたハイブリッドモデルによって支えられており、国家支援機関からの大規模な資金調達によって支えられています。


【評価】これは「支配」なのか?それとも「戦略」なのか?

結論から言えば、中国は「包括的な素材支配戦略」を実行中です。ただし、すべての分野で等しく強いわけではありません。

【分野別の評価】

ただし、中国の優位性が永遠に続くわけではありません
レアアース精製には、1トンあたり13kgの有害粉塵、9,600〜12,000立方メートルの有害ガス、75立方メートルの廃水が発生します。この環境負荷が、将来的に政治的な問題になる可能性もあります。

また、西側諸国の「フレンドショアリング(友好国からの調達)」も加速しており、中国も対抗策を考えざるを得ません。


【まとめ】

中国は、レアアース・リチウム・コバルトといった重要鉱物から、太陽光パネル・EV電池・高性能磁石、そして竹プラスチックのような次世代素材まで、素材の「バリューチェーン全体」を掌握する戦略を進めています。

これは単なる「資源ナショナリズム」ではなく、未来の産業構造そのものをデザインする壮大な国家戦略です。

ホルムズ海峡危機はその戦略の重要性を一層浮き彫りにしました。「石油に頼らない」「海の要所に左右されない」素材の国内供給網をつくること。それが中国の狙いです。

竹プラスチックはまだすべてを解決する「魔法の素材」ではありませんが、再生可能で国内でまかなえる素材として、この戦略にぴったりはまっています。

中国の素材支配が本当に持続するかどうかは、西側の対応や環境コスト、技術革新のスピードにかかっています。しかし、現時点で確かなことは——
「中国の素材支配は現実であり、意図的であり、拡大し続けている」ということです。


レポート作成日: 2026年8月14日

参考情報: SCMP(南華早報)、ブルームバーグ、Nanowerk、East Asia Forum、中国日報、人民日報、GhanaWeb(Mining.com)、Ahram Online、The Diplomat、その他学術情報を基に作成しています。