なぜ外国人投資家は2025年7月に日本国債を大量売却したのか

2025年7月、外国人投資家は日本国債(JGB)の長期債を1兆円以上売り越しました。これは、2月から6月まで超長期債を毎月1兆円以上購入していたトレンドからの大きな転換です。この売却は日本証券業協会のデータにより明らかになり、世界第3位の債券市場である日本の動向に注目が集まっています。以下では、この大幅な売却の背景にある要因を詳しく分析します。

1. グローバルな利回り競争

外国人投資家は、より高い利回りを提供する市場に資本を再配分している可能性があります。2025年7月、米国の10年物国債利回りは4.5%近くで推移し、欧州のソブリン債も金融引き締めやインフレ期待により高い利回りを記録しました。一方、日本の10年物JGB利回りは1.6%(17年ぶりの高水準)まで上昇しましたが、日本銀行(BOJ)の利回り曲線制御により依然として低い水準です。この利回りの差は、ヘッジファンドや年金基金などの利回りを求める投資家にとってJGBを魅力的でないものにしています。ソシエテ・ジェネラルによると、選挙期間中に外国人投資家は10年物JGBを1.4兆円純売却し、より高い利回りの市場に資金をシフトした可能性があります。

2. 円のボラティリティと通貨リスク

円の価値の変動は、外国人投資家のJGBリターンに大きな影響を与えます。2025年7月、円は対ドルで147円程度まで下落し、さらなる下落が予想される状況でした。円安は、外国通貨に換算する際のリターンを減少させ、通貨リスクを高めます。米日貿易協定の発表は一部の経済的不確実性を軽減しましたが、輸出主導型の日本経済に対する課題を示唆し、円安圧力を強めた可能性があります。ヘッジコストが高い、またはヘッジを行わない投資家は、通貨損失を避けるためにJGBを売却した可能性があります。

3. 選挙後の政治的不確実性

2025年7月の参議院選挙では、自由民主党と公明党が議席を失い、積極的な財政刺激策を主張する野党が議席を増やしました。この政治的変化は、財政赤字(GDP比260%)の拡大や債券発行の増加を招く可能性があり、インフレ圧力を高め、JGB利回りの上昇や価格の下落を引き起こす懸念を生みました。石破茂首相の辞任の可能性に関する報道も市場の不確実性を増し、「政治的リスクプレミアム」が織り込まれました。MUFGモルガン・スタンレーは、8月の20年物JGBオークションの低調な結果が財政拡大リスクを反映していると指摘しており、7月にも同様の懸念が外国人投資家の売却を促した可能性があります。

4. ポートフォリオの再調整

外国人投資家は、2025年初頭に超長期JGB(20年、30年、40年物)を毎月1兆円以上購入していましたが、7月の売却はポートフォリオの再調整を反映している可能性があります。これまでの大量購入後の利益確定や、株式やオルタナティブ投資などのリスク資産へのシフトが考えられます。国内の機関投資家がJGB購入を減らし、株式やオルタナティブ投資にシフトしているトレンドを外国人投資家が追随している可能性もあります。40年物JGBオークションの入札カバー率が2.45(2023年半ば以来最低)だったことは、投資家が長期債のリスク・リターンを見直していることを示唆しています。

5. グローバルな経済シグナル

世界的な経済状況も売却を後押ししています。日本のコアCPIは7月に3.1%で、BOJの2%目標を上回り、超緩和的金融政策の継続に疑問を投げかけています。投資家はBOJが利回り曲線制御をさらに調整し、長期利回りが上昇すると予想し、債券価格の下落リスクを回避するために売却した可能性があります。また、米国の関税政策や他の債務国での財政懸念によるグローバルな債券市場のボラティリティも影響しています。米国では低需要の国債オークションやムーディーズの格下げにより30年物利回りが5%を超え、ソブリン債リスクの再評価を促しました。5月と7月の20年・40年物JGBオークションの低調な需要は、こうしたグローバルなトレンドを反映しています。

6. 構造的圧力:国内およびグローバル

国内では、BOJの債券購入縮小(2023年11月以来210兆円減)により、外国人や国内投資家がそのギャップを埋める必要が生じています。しかし、伝統的なJGB購入者である生命保険会社は、長期債の保有による「デュレーション・ギャップ」問題で損失を被り、資本保護のために売却しています。この国内需要の弱まりは、外国人投資家にJGB需要の低下を示唆し、売却を促した可能性があります。さらに、高齢化と労働力人口の縮小により、国内の債券吸収能力が低下しています。グローバルには、米国や欧州の債券需要の低下に見られるソブリン債リスクの再評価が、日本市場にも波及しています。

結論

2025年7月の外国人投資家によるJGBの大量売却は、グローバルな利回り競争、円のボラティリティ、選挙後の政治的不確実性、ポートフォリオの再調整、グローバルな経済圧力、構造的問題の複合的な要因によるものです。国内銀行が購入を続けているため危機的状況ではないとされていますが、外国人投資家の継続的な撤退はJGB利回りの上昇や市場のボラティリティを招く可能性があります。財務省の超長期債発行削減やBOJの慎重な政策調整は市場の安定を目指していますが、外国人投資家の信頼回復には財政・金融政策の明確なシグナルが必要です。今後のJGBオークションやBOJの政策会合を注視する必要があります。