本報告書は、2025年におけるガザ地区をめぐる情勢について、特に(1)トランプ米政権とアラブ諸国(特にエジプト)との緊張関係、(2)ガザの深刻な人道状況、(3)イスラエルのパレスチナ国家承認拒絶の立場、という3点に焦点を当てて徹底的に調査・分析しました。これらの要素は、2025年9月の国連総会におけるパレスチナ国家承認をめぐる会議に主要アラブ指導者が出席しなかった背景を理解する上で重要です。
トランプ米大統領が2025年2月に発表したガザ計画は、米国と中東の主要同盟国であるエジプト、ヨルダン、サウジアラビアとの間に深刻な緊張関係を生み出しました:。
2025年2月4日、トランプ大統領はベンヤミン・ネタニヤフ-イスラエル首相との共同記者会見で、アメリカがガザ地区を「占領」し、「中東のリビエラ」として再開発する構想を発表しました:。この計画は、以下の要素を含んでいました。
トランプ大統領はこの計画について、「米国が引き継ぎ、所有する」と述べ、非常に強硬な姿勢を示しました:。後に政権幹部が「一時的な移住」と修正を試みたものの、基本的な考え方は変わりませんでした:。
この計画は、特にエジプトとヨルダンから強い反発を受けました:。エジプトは、パレスチナ人がシナイ半島に流入することにより、国境地域の不安定化や、イスラム過激派の浸透を懸念しました:。ヨルダンは、すでに多数のパレスチナ難民を受け入れていることから、新たな流入がハシミテ王国の安定を脅かす可能性があると懸念を示しました:。
2025年3月4日、アラブ連盟はエジプトの主導で緊急首脳会議を開き、総額530億ドル(約7兆9500億円)規模のガザ再建計画を採択しました:。これはトランプ政権の計画に対する明確な対案であり、エジプトのアル・シシ大統領が「2国家解決」を目指す計画の実現を呼びかけるなど、政治的に対立する立場を鮮明にしました:。
このような背景から、2025年2月にはエジプトの治安当局者が、トランプ大統領のガザ計画(パレスチナ人をシナイに移住させる提案を含む)が議題に含まれる場合、エル・シシ大統領がホワイトハウス会談に出席しない可能性を示唆していました:。これは、政策の意見の相違が米国政権が関与するイベントの出席に影響を与える可能性があるという考えに信憑性を与えるものです。
2025年8月には、ワシントン・ポスト紙がトランプ政権が少なくとも10年間ガザを管理する案を報じ、パレスチナ人1人当たり5000ドルの現金給付など「自発的」移住を想定していると伝えました:。このような計画が進められる中、アラブ諸国との関係はさらに緊張しました。
ガザ地区は2023年10月の戦争開始以来、壊滅的な状況に陥っており、国際機関やメディアは「地獄」のような状況と報告しています:。
イスラエルの攻撃により、ガザ地区は広範囲にわたって破壊されました:。
指標 | 状況 | 情報源 |
---|---|---|
住宅の破壊・損傷率 | 90%以上 | 国連: |
がれきの量 | 5000万トン以上(除去に21年かかる量) | BBC: |
飢餓状況 | 飢饉、栄養不良、疾病が広がっている | 総合的食料安全保障レベル分類(IPC): |
ロイターは2025年5月の時点で、ガザの約230万人の住民の大部分が避難民となっていると報じています:。学校、病院、下水道、送電線に至るまで、生活に必要な基本的なもののすべてが破壊されている状況です:。
BBCなどのメディアで広く報じられた国連調査報告書は、イスラエルがガザでジェノサイド行為を行ったと判断する「合理的な理由」があると結論付けています:。これは、これらの外交的動きが行われている高い緊張の背景を強調し、なぜアラブ指導者がイスラエルを無条件に支持すると見なされている米国政権との関わりを警戒する可能性があるかを示しています。
イギリスのデイヴィッド・ラミー外相は2025年9月、「私たちは最も恐ろしい光景を目にしている。国際社会は、支援を求めて手を差し伸べる子どもたちが撃たれ、殺されていることに、深い憤りを感じている」と述べ、状況の深刻さを強調しました:。
イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、パレスチナ国家の樹立に断固として反対する姿勢を一貫して示しており、これが和平プロセスの根本的な障害となっています:。
ネタニヤフ首相は、「ヨルダン川西岸にパレスチナ国家は設立されない」と明確に宣言しています:。これは、2025年9月に国連で行われたパレスチナ国家承認に関する会議に対しても同様で、ハマスとパレスチナ自治政府が将来的にガザで何らかの役割を担う可能性を繰り返し否定しています:。この立場は、イスラエル連立政権を支える極右勢力の要求を反映したものですが、国際社会の圧力に対しても強硬な姿勢を維持しています。
ネタニヤフ首相はトランプ大統領のガザ計画を「先見の明がある」と評価し、「最初の良いアイデア」と称賛しました:。これは、両者の考え方が極めて近いことを示しており、トランプ政権がイスラエルの戦略とますます一致しつつあることを裏付けています:。
イスラエルの極右政治家たちは、トランプ氏の考え方がイスラエルの保守派の願望と一致しているとして歓迎の意を表明しています:。これは、パレスチナ国家を樹立することなく、ガザからのパレスチナ人追放を可能にする考え方と符合するためです。
イスラエルは、ガザの将来像について以下のような立場を取っています::
このような立場は、国際社会が求める「2国家解決」とは根本的に相容れないものであり、パレスチナ国家承認の動きが実質的な効果を持つかどうかについて重大な疑問を投げかけています:。
本報告書で分析した3つの要素 - (1)トランプ政権のガザ計画をめぐる米国とアラブ諸国(特にエジプト)の緊張関係、(2)ガザの壊滅的な人道状況、(3)イスラエルのパレスチナ国家承認への拒絶姿勢 - は、相互に密接に関連しています。
2025年9月の国連総会におけるパレスチナ国家承認会議にエジプトのエル・シシ大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子が出席しなかった背景には、これらの複合的な要因が働いていたと考えられます。特に、トランプ政権のガザ計画に対する強い反発と、イスラエルに対する米国の一方的な支持が、主要アラブ指導者の対米姿勢に影響を与えた可能性が高いです。
国際社会のパレスチナ国家承認の動きは重要な政治的メッセージではありますが、イスラエルの強硬な拒絶姿勢とガザの悲惨な現実を考えると、直ちに状況が改善する見込みは薄いと言わざるを得ません。真の解決のためには、パレスチナ人の権利と安全を保障する現実的な枠組みと、すべての関係者を含む包括的な対話が必要不可欠です。