ミアシャイマー氏が「理解に苦しむ」と述べたサウジアラビアのフーシ派攻撃ですが、公開情報を調査すると、同国にとって「これ以上ないほど合理的な判断」であったことが見えてきます。以下、奇譚のない分析をお伝えします。
2026年7月13日、サウジアラビアが支援するイエメン政府軍が、サヌア国際空港の滑走路を空爆しました。表向きの理由は「イラン革命防衛隊の高官葬儀に出席したフーシ派代表団を乗せたイラン機の着陸を阻止するため」です。しかし、この攻撃は単なる着陸阻止ではなく、4年間続いた非公式停戦を一方的に破棄するものでした。
これが最も本質的な理由です。ホルムズ海峡がイランによって事実上封鎖された結果、サウジアラビアは石油輸出の70%以上を紅海ルートに依存せざるを得なくなりました。東部の油田からヤンブー港までパイプラインで送り、そこから紅海を南下してアジア市場へ輸送するルートです。
ところが、フーシ派は2026年7月に紅海でのサウジ船舶に対する海上封鎖を宣言し、この新たな生命線を直接脅かしました。さらにフーシ派は紅海沿岸のモカ港や戦略的ペリム島を占領し、バベル・マンデブ海峡の制圧を進めていました。この海峡を封鎖されれば、サウジの石油輸出は完全に停止します。
サウジにとってこれは「経済的存亡の危機」であり、フーシ派の進出を黙認することは自国の破滅を意味しました。
サウジのムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、フーシ派の攻勢を受けてトランプ大統領に二度電話し、米軍によるフーシ派直接攻撃を要請しました。しかしトランプ大統領はこれを拒否し、代わりに「情報提供と標的データ」のみを約束しました。
米国がイランとの戦争に集中するあまり、サウジの紅海の危機に介入しないと判断したのです。ミアシャイマー氏が「米国は信頼できない」と指摘した通りの状況で、サウジは自力で紅海の安全を確保するしかないと判断しました。
フーシ派は和平交渉の中で、サウジに対して以下を要求していました:
サウジ当局者はこれらの要求を「過大(excessive)」と見なし、「フーシ派との和平は不可能」という認識を強めていました。外交交渉の完全な決裂が、軍事行動への転換を促しました。
見落とされがちですが、フーシ派のイデオロギー的目標にはメッカとメディナの「解放」が含まれています。サウジアラビアにとって、これは国家の正統性そのものへの脅威です。聖地を守ることはサウジ王家の存在理由の根幹であり、フーシ派の勢力拡大は体制転覆のリスクと隣り合わせでした。
ミアシャイマー氏は「サウジがなぜイランと同盟するフーシ派と争いを始めたのか理解に苦しむ」と述べました。しかし、上記の文脈を踏まえると、サウジの行動は「攻撃」ではなく「防衛」として理解できます。
実際、AP通信の分析も「サウジアラビアはイランとの戦争を望んでいなかったが、最悪のシナリオが現実になりつつある」と指摘しています。サウジにとって、フーシ派の紅海制圧は「戦争を仕掛けられた」も同然の事態だったのです。
ただし、ミアシャイマー氏の批判が完全に的外れというわけでもありません。サウジの空爆は、フーシ派の反撃を招き、モカ港やドゥバブなど紅海沿岸の主要拠点をわずか18時間で失うという結果を招きました。この意味で、ミアシャイマー氏の「戦略的誤算」という評価には一定の妥当性があります。
サウジアラビアがフーシ派の空港を攻撃した理由は、①紅海石油ルートの防衛、②米国の支援拒否による自衛の必要性、③フーシ派の非現実的な要求への失望、④聖地防衛という体制の根幹に関わる脅威という、四重の合理的動機に基づいています。
ミアシャイマー氏の「理解に苦しむ」という発言は、米国の視点から見た戦略的整合性を基準にしたものであり、サウジアラビアの国家存亡に関わる切実な事情を十分に考慮していない可能性があります。しかし、結果としてこの攻撃がフーシ派の更なる拡大を招いた点では、同氏の「戦術的には誤算」という指摘もまた、正確であると言わざるを得ません。