トランプとサルマン王子の会談:BRICSへの影響、日本への示唆

はじめに

2025年11月18日に米国ホワイトハウスで行われたドナルド・トランプ大統領とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン(MBS)王子の会談は、国際政治経済の動向に大きな影響を及ぼす重要な出来事です。この会談は、両国間の戦略的パートナーシップを強化する機会となり、経済投資、防衛協力、中東和平などのテーマが議論されました。本報告書では、会談の概要と主要なポイントを詳細に分析した上で、新興国グループ「BRICS」への影響、および日本への波及効果について包括的に考察します。

情報源はアクセス可能な公開資料に基づき、2025年11月19日時点の最新動向を反映しています。BRICSの急速な拡大(2024年1月のイラン、エジプト、エチオピア、アラブ首長国連邦の加盟、2025年のインドネシア加盟により10カ国体制)を背景に、米国とサウジアラビアの関係強化がもたらす地政学的変化に焦点を当てます。BRICSは現在、世界人口の約49%、購買力平価ベースのGDPの約39%を占め、多極化する世界秩序の中で独自の役割を拡大しています。

会談の概要と背景

トランプ大統領はMBS王子を盛大に迎え入れ、行進バンド、旗を持った騎馬隊、軍用機のフライオーバーなどのセレモニーを実施しました。この会談は、トランプ政権第二期の中東政策の基盤を固めるものであり、ビジネス機会、平和イニシアチブ、人工知能(AI)、技術分野での議論が中心となりました。一方、ガザの危機などの人道的課題はほとんど触れられず、エネルギー政策、安全保障協力、中東和平プロセスが主要議題となりました。トランプ氏はMBS王子を「素晴らしい」「輝かしい」と称賛し、両者の個人的な信頼関係を強調しました。

この会談の背景には、2025年6月のイラン核施設への米国攻撃後の緊張緩和と、サウジアラビアの国際的立ち位置の変化があります。サウジアラビアは従来、米国との緊密な関係を維持してきましたが、多極化する世界秩序の中で独自の外交路線を模索しており、BRICSの影響力増大がその一因です。両国間の投資額は6000億ドルから1兆ドル規模への拡大が示唆され、事例としてトランプ政権初期のアブラハム合意の拡大が挙げられます。この合意はイスラエルとアラブ諸国間の正常化を促進したもので、今回の会談でさらに推進される見込みです。トランプ氏、アブラハム合意の拡大を期待

会談の五つの主要なポイント

会談では以下の五つの主要なポイントが浮き彫りになりました。これらは中東の地政学的シフトを象徴し、国際的な影響を及ぼします。

1. サウジアラビアとイスラエルの関係強化とアブラハム合意

MBS王子はアブラハム合意への参加を表明しつつ、パレスチナ問題の解決を条件としました。「中東のすべての国々と良好な関係を持つことは良いことであり、私たちはアブラハム合意の一部になりたい」と述べ、「二国家解決への明確な道筋」を求めました。トランプ氏は「一国家、二国家」などの議論を「良い話し合い」と評価し、早期の進展を約束しました。

事例として、2020年のアブラハム合意でアラブ首長国連邦やバーレーンがイスラエルと国交を樹立した成功例を基に、サウジアラビアの参加が中東の地政学的シフトを加速させる可能性があります。引用として、アラブ和平イニシアチブが前提条件として繰り返し言及されました。このイニシアチブは、イスラエルのパレスチナ国家承認を求めるものです。サウジアラビアMBS氏、トランプ氏との会談アジェンダ

2. 米国・サウジアラビア間の防衛協定の進展

トランプ氏は相互防衛協定の合意がほぼ成立したと述べ、「私たちはほぼ合意に達しました」と語りました。これは北大西洋条約機構の第5条に類似し、攻撃時の米軍支援を義務づけるものです。また、F-35戦闘機のサウジアラビアへの販売を承認し、イスラエルの軍事優位性を維持しつつ「最高級の装備」を提供すると約束しました。「彼らは能力を下げた機体を望んでいます。私はそれがあなたをあまり喜ばせないと思います」とMBS王子に語りました。

事例として、2025年11月17日のトランプ氏の発言でF-35販売が正式に承認された点が挙げられます。これにより、サウジアラビアの防空能力が強化され、中東のバランスが変化します。トランプ氏、F-35戦闘機のサウジアラビア販売を承認MBS-トランプサミット、防衛とビジネスに焦点

3. イランとの取引への米国開放性

トランプ氏は2025年6月のイラン核施設攻撃を「皆さんのために行いました」と誇り、「最高のパイロット、最高の装備」と称賛しました。しかし、「私は完全に開放的です。私たちは彼らと話しています」と外交的解決を示唆し、核プログラムの解体を望みました。MBS王子も「米国とイランの取引達成に最善を尽くします」と支持しました。

事例として、イラン大統領マスード・ペゼシュキアン氏からMBS王子への手紙(内容非公開)が事前交換され、外交の布石となりました。トランプ氏、6月のイラン攻撃を主導イラン大統領、核兵器不開発を誓う

4. 米国への巨額サウジアラビア投資

トランプ氏はMBS王子から6000億ドルの投資を感謝し、「私の友人なので1兆ドルになるかもしれません」と冗談めかしました。MBS王子は「技術とAI、希少素材などで1兆ドル規模の投資機会を生み出します」と確認し、米国を「世界で最も熱い国」と称しました。

事例として、会談直後の発表で投資が雇用創出とウォール街の活性化を促すとされ、エネルギー分野での協力が具体化しました。2025年11月の投資拡大は、トランプ政権の経済政策の柱です。サウジアラビア、米国に1兆ドル投資サウジアラビア、不可欠な米国同盟国として位置づけ

5. 相互賛辞と個人的信頼関係

両首脳は互いを称賛し、トランプ氏はMBS王子を「人権で驚異的な仕事をした」と評価しました。2021年のバイデン氏のMBS王子との拳タッチを批判し、「私はその手を握りました。どこにあった手かなど気にしません」と述べました。また、記者への叱責も見られました。

事例として、2018年のジャマル・カショギ氏殺害事件後の緊張が解消され、個人的な絆が強調されました。エプスタイン・ファイル公開法案の文脈でもトランプ氏の対応が注目されています。エプスタイン・ファイル公開、トランプ氏の反対撤回トランプ-MBS会談、長期パートナーシップの新現実

BRICS諸国への影響の詳細な説明

この会談は、BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、および拡大メンバー)諸国に多大な影響を及ぼします。BRICS+は世界GDPの35%、人口の45%を占め、独自の決済システム構築を進めていますが、石油取引のドル依存(ペトロダラー)が課題です。米国・サウジアラビア間の防衛・経済協定強化が、BRICSの脱ドル化努力を阻害する可能性が高い一方で、加盟戦略や結束に新たな変数を投じます。以下に詳細を整理します。

1. サウジアラビアのBRICS加盟戦略への影響

サウジアラビアは2023年にBRICS加盟の招待を受けながらも、米国との従来の関係を考慮して見送りました。しかし、今回の会談結果は加盟の是非に新たな変数を投じます。MBS王子の1兆ドル投資とF-35販売は、サウジアラビアを米国中心の経済圏に再統合し、BRICSの石油代替通貨構想を弱体化させます。トランプ政権の保護主義的な貿易政策(高関税発動の脅威)が強まれば、エネルギー輸出国であるサウジアラビアは新たな市場とパートナーを求めるインセンティブが高まり、BRICS接近の可能性が生じます。2025年7月のBRICS首脳会議では、一方的な関税賦課が「貿易をゆがめ、世界貿易機関ルールと整合しない」として批判されており、このような状況下でサウジアラビアの動向が注目されます。

2. BRICSの結束と対米戦略への波及効果

会談はBRICS内の結束に複雑な影響を与えます。BRICSは「反米」色を薄めて現実的な路線へ移行しつつありますが、2025年7月の首脳会議でイランへの軍事攻撃を非難する声明を採択するなど、加盟国支援を通じて結束を示しています。加盟国間には政治体制や価値観の相違がありますが、米国への対抗という共通利益で維持されています。今回のイランとの外交的取引可能性は、BRICS内のイラン(2024年加盟)を孤立化させる恐れがあり、X(旧Twitter)上の議論ではMBS王子のBRICS欠席が米国寄りのシグナルと指摘されています。一方で、トランプ氏の脱ドル化批判がBRICSの野心を挫き、南アフリカのG20での「米国軽視」解消努力を複雑化させる可能性があります。事例として、2024年のBRICSサミットでパレスチナの加盟申請が発表されましたが、中東和平の進展がBRICSの地政学的影響力を低下させるかもしれません。全体として、この会談は多極化推進を遅らせる一方で、内部結束を強める契機となります。トランプ氏の脱ドル化批判がBRICSに与える影響王子のトランプ会談、アジェンダの野心

3. 経済秩序と脱ドル化への影響

BRICSは経済面で国際通貨基金や世界銀行への対抗軸として新開発銀行を設立し、購買力平価ベースのGDPでG7を上回る規模に成長しています。BRICS諸国は中央銀行の外貨準備高で世界の42%を占め、共通通貨創設や自国通貨決済の推進により、米ドルの支配的地位に挑戦しています。トランプ政権の高関税脅威は、この脱ドル化の動きを加速させる可能性がありますが、米国・サウジアラビアの投資拡大はペトロダラーの維持を強化し、BRICSの制度的基盤構築を妨げます。

日本への影響

日本への直接的な影響は限定的ですが、エネルギー安全保障、経済・貿易、外交面で間接的な波及が見られます。日本は原油輸入の約30%をサウジアラビアに依存しており、今回の投資・防衛協定は石油価格の安定化に寄与しますが、米国主導の地域安定化が日本の外交余地を狭める可能性があります。以下に経済的、外交的、エネルギー安全保障の観点から包括的に考察します。

1. 経済的影響

BRICSの経済規模拡大(購買力平価ベースGDPの約40%)に伴い、日本企業はこれらの国々との貿易・投資を深化させる必要に迫られます。脱ドル化の動きが本格化すれば、為替リスクの多様化や決済通貨の多様化に対応しなければなりません。BRICS諸国との取引で米ドル依存を減らす決済方法の模索が進む可能性があります。一方、会談の技術・AI分野協力は日本企業の機会を生み、2019年のG20大阪サミットでトランプ氏とMBS王子の会談が開催された事例のように、投資拡大が日本経済に好影響を与えます。しかし、BRICS拡大(インドの影響)が貿易シフトを招くため、監視が必要です。トランプ氏、サウジ王子を温かく歓迎サウジ-米サミット、貿易投資を超える可能性

2. 外交的立場

日本はG7の一員として西側諸国の価値観を代表しますが、BRICSの台頭と米中対立激化の下でバランスの取れた外交が求められます。スイスのようにグローバル・ノースとグローバル・サウスの架け橋となる可能性があり、特に東南アジア諸国連合におけるBRICSの影響力拡大を考慮する必要があります。シンガポールのISEAS研究所の世論調査では、ASEAN諸国が米中のどちらかを選ぶ場合、初めて過半数が中国を選んだと報告されており、日本はASEAN関係の維持・強化のため繊細な外交を展開しなければなりません。また、イラン取引の進展は日本の中東和平イニシアチブ(例: 2023年のアラブ・イスラエル対話支援)を複雑化させ、日経アジアの報道では中東安定が日本・アジア太平洋戦略に好影響を与えると分析されています。

3. エネルギー安全保障

サウジアラビアは日本にとって重要なエネルギー供給国であり、そのBRICS加盟動向は直接的な影響を及ぼします。加盟し、エネルギー取引の決済通貨をドル以外に移行すれば、調達コストや方法に変化が生じます。今回の会談による石油価格安定化は利点ですが、米国寄りのサウジアラビア外交が日本の多角的エネルギー戦略を制約する可能性があります。

結論と今後の展望

トランプ大統領とMBS王子の会談は、米国・サウジアラビアの絆を再確認し、中東の新時代を象徴します。五つの主要ポイントから、防衛・経済の深化が明らかですが、BRICSへの影響は脱ドル化の停滞と結束強化の両面を招き、日本にはエネルギー安定の利点と外交的課題をもたらします。国際秩序の多極化傾向を促進する節目として、BRICSの更なる拡大と制度的基盤強化が2025年下半期から2026年に予想されます。日本にとっては、日米同盟を基盤としつつ、BRICS諸国との協力関係を構築するバランス感覚が不可欠です。経済面での貿易・投資深化と脱ドル化対応、外交面での多角的関係構築を通じて、国益を追求すべきです。将来的にこれらの動向を注視し、日本外交の柔軟性を保つことが重要です。最新情報は変動しますので、継続的なフォローをおすすめします。