本稿は『【3/11】攻撃停止後も消えないホルムズ電子妨害 供給回復の盲点【聞く経済ニュース』(https://youtu.be/AIsbTA6vv_0)から引用させていただきました。
ホスト:
おはようございます。今回はホルムズ海峡で今まさに進行中の電子的な封鎖、そして停戦後の影響という隠れたリスクについて深掘りしていきます。
ゲスト:
はい。物理的な攻撃や部隊の動きに注目が集まりがちですが、ホルムズ海峡の物流への影響において、むしろ電子妨害の問題の方が長期的なリスクとして大きくなっていく可能性を秘めています。
ホスト:
今日はそこを丁寧に解説したいと思います。まず状況を整理させてください。今回の危機、そもそもの発端はどこにあるんでしょうか?
ゲスト:
危機の概要を端的にまとめますと、2月28日に米国とイスラエルが共同でイランへの軍事作戦「オペレーション・エピック・フューリー」を発動しました。イランの最高指導者ハメネイ師が死亡し、革命防衛隊がホルムズ海峡の封鎖を宣言。
3月11日時点でタンカー通行は準封鎖状態で、150隻以上が海峡の両端に停泊したまま動けない状態になっています。
ホスト:
封鎖の規模感を数字で見るとどのくらいの影響なんでしょうか?
ゲスト:
ホルムズ海峡というのは世界の石油貿易の約20%、液化天然ガスに至っては海上輸送量の約35%が通過する、文字通り地球のエネルギーの大動脈です。
アルハブトール・リサーチ・センターが3月8日に発表したレポートによると、日量約1500万バレルの原油が通過しており、S&Pグローバルの試算では石油製品を合わせると日量2050万バレル規模になります。それほどの量が止まっているということですね。
ホスト:
続いて今日の本題となる電子的な封鎖の実態についてです。GPSジャミング、AIS妨害という言葉が飛び交っていますが、まずそれぞれ何を意味するのか教えていただけますか?
ゲスト:
整理しましょう。GPSというのはアメリカの衛星測位システムですが、GNSSというのはそれを含む全世界の衛星測位システムの総称です。ジャミングというのは電波を大出力で上書きして船のGNSSが全く機能しなくなる状態を指します。
一方、スプーフィングはより悪質で、意図的に偽の位置情報を送り込んで船が「自分は今ここにいる」という誤った認識をしてしまう状態です。
フランス24が3月7日に報じた専門家の分析では、ホルムズ海峡周辺のAISデータを見ると、単純な妨害ではなく、明らかに水上船舶に向けて行われたスプーフィングが行われているとしています。
ホスト:
実際、船がどんな状態になっているんでしょう?
ゲスト:
かなり異常な状態です。マリタイムAIを手掛けるウィンドワードが3月5日に公開したレポートによると、封鎖直後の段階で船が空港や核発電所、そしてイランの内陸部に位置しているかのような誤表示が発生しました。
CNNが3月7日に報じたところでは、ウィンドワードのシニアマリタイムインテリジェンスアナリスト、ミルー・ズボックマン氏が「中東海域で今起きていることは、海運業界にとって極めて危険な状態だ」と述べています。
Oilprice.comが3月11日に報じた記事では、スターボード・マリタイム・インテリジェンスのアナリスト、マーク・ダグラス氏の言葉として「この海域ではいかなる船舶もGPSを信頼できない」という表現が使われていました。かなり強い言い方ですよね。
ホスト:
そうです。あの一言は象徴的で、これがただの機材トラブルではなく、意図的な電子戦の環境になっていることを意味しています。
ゲスト:
規模で言うと、ウィンドワードが3月8日に出した情報では、3月7日時点でGPS・AIS妨害を受けた船舶が1650隻以上、全船舶の55%超です。3月10日に合同海洋情報センターがアラビア海・ホルムズ海峡・オマーン湾の脅威レベルを「以前クリティカル(最高レベル)」に設定したまま、過去24時間で600件超のGNSS障害イベントを報告しています。
数字が積み上がるほどに危機感が増してきます。
ホスト:
実際の影響についてですが、ジャミングやスプーフィングは航行の安全だけではなく、ビジネス上のリスクにもなるということですか?
ゲスト:
そこが見逃されがちなポイントです。インサイドGNSSが3月4日に掲載した技術的な考察によると、スプーフィングで生じた偽の位置情報が自動制裁コンプライアンスシステムに「イランの領海に侵入」「制裁対象船に接触」といった誤判断をさせてしまう可能性があります。これは航行上のリスクとは別の、規制上・契約上の深刻な問題です。
保険会社や荷主との間で契約違反の判定が自動的に下される可能性があります。それはつまり、船が何も悪いことをしていなくても、システム上では違反者扱いになりかねないということですね。
ゲスト:
まさに。そしてもう一つ重要なのが、防衛策として取られているAIS信号を自分からオフにする、いわゆるダークシップの問題です。
スプーフィングによる誤認を避けるための手段として理解できますが、AISを切ると今度は他の船から自分の位置が見えなくなります。ただでさえGPSが作動しないで航行が難しい狭い海峡で、船同士が互いを把握できなくなるわけですから、衝突リスクが跳ね上がります。
CNNの同記事では、過去2025年6月にもUAE沖でのタンカー衝突に電子干渉が関与していた可能性が指摘されています。物理的な攻撃に加えて、電子妨害という目に見えない脅威が重なっているわけですね。
ホスト:
次に保険市場の話に移りたいんですが、これが今回の危機で非常に重要な役割を果たしているということで、保険の問題はある意味で物理的よりも効果的な封鎖手段になってしまいました。
ゲスト:
Gキャプテンが3月7日に掲載した詳細な解説によると、作戦発動から72時間以内にノルウェーのガードスクルド、英国のノース・スタンダード、ロンドンP&Iクラブ、Steamship Mutualといった主要なP&Iクラブが一斉にペルシャ湾・ホルムズ海峡・オマーン湾を含む広範囲に対する戦争リスク特約のキャンセル通知を発行しました。3月5日午前0時をもって執行しています。
ホスト:
P&Iクラブというのは聞き慣れない方も多いと思いますが、世界のどのくらいのシェアを持っているんでしょうか?
ゲスト:
世界の船舶の約90%が加入している海運の保険の中核です。これが抜けると船主は第三者賠償リスクを自分で被ることになる。現実問題として、原油を載せて航行させることが経営上不可能になります。
ケプラーが3月1日に出した市場分析はこれを端的に表現していて、「ホルムズ海峡は技術的には空いていても、保険撤退が物理的封鎖と同等の結果をもたらしている」としています。
ホスト:
戦争リスク保険が一時撤退した後、現在はどういう状態なんでしょうか?
ゲスト:
ロイター・グローバルが3月7日に報じたところでは、ロイズ・オブ・ロンドンを含む市場が7日更新という短期契約で再提供を始めています。ただし保険料率は船舶評価額の1%近くまで前の0.25%から4倍です。
VLCCと呼ばれる超大型タンカーの1日あたりのチャーター料は、以前の比較水準から最大で77万ドル近くまで跳ね上がりました。
さらにトランプ政権が米国際開発金融を通じて200億ドルの再保険プログラムを3月9日に発表しましたが、インシュランス・ジャーナルの同日報道によると、船主は保険の問題というより「クルーを戦場に送ること自体が問題だ」という本音を語っています。保険があっても、乗組員が行かないということですね。
ホスト:
では、いわゆる停戦が実現した場合、原油供給はすぐに回復するのでしょうか?ここが今日最も重要なポイントだと思いますが、そこが市場の誤算になりうるところです。
ゲスト:
供給回復を遅らせる要因が停戦後も少なくとも3つ残ります。
1つ目は保険市場の段階的回復の問題。The Africa Listが3月9日に掲載した分析は、2024年の公開演習でのオペレーション・プロスペリティ・ガーディアン展開時に多くの船主が迂回ルートを継続した例を引いています。市場と船主が必要としているのは政府の言葉ではなく、持続的な安全の証明だということです。この例を見ても、停戦宣言翌日からタンカーが戻るという見立ては厳しいことが分かります。
ホスト:
2つ目と3つ目はどんな要因ですか?
ゲスト:
2つ目がまさに電子妨害の残存です。JMIC自身が過去48時間に新たな攻撃はないと発表しながら、同時にこれを「脅威の変化」として解釈すべきではなく、一時的な小康状態と見るべきだと警告しています。電子妨害は地上の停戦協定に関係なく、装置を撤収するかどうかは戦闘停止とは別の話です。
3つ目はATLAS Institute for International Affairsの3月4日付けレポートが指摘しているように、雷ドローン、電子ジャミング、IRGC高速艇という多重リスクの組み合わせは、外交的進展があっても商業船が無視できないリスク環境を継続的に生み出すということです。
ゲスト:
JPモルガンの分析で供給回復が想定よりも早いという指摘がありましたね。これは重要なデータポイントです。investing.comが3月10日に紹介したJPモルガンの試算では、ホルムズ閉鎖後に各国が貯蔵タンクの容量を超えて生産停止を余儀なくされるまでの時間を推計していました。クウェートは14日と見ていたのに、現実には7日で生産を止めました。生産が止まると再稼働には停戦後でも数ヶ月単位の時間がかかる可能性があります。
OPECプラスが4月からの増産を発表していますが、The Trading Keyが3月5日に指摘したように、サウジアラビアとUAEの余剰生産能力はホルムズを経由してこそ世界市場に届くわけで、海峡がボトルネックである間は数字上の増産能力に実質的な意味がありません。
ホスト:
視聴者の方が特に気になるのは日本への影響だと思います。どのような構造になっているんでしょうか?
ゲスト:
日本にとってこの危機は他人ごとではありません。アトラス・インスティテュートのレポートおよびEIAの試算では、ホルムズを通過する原油の84%がアジア向けです。欧米に比べて供給の代替手段が著しく限られています。
加えてLNGの約35%が同海峡を通過しており、カタールからの輸入依存が高い日本の電力・都市ガス事業者には直接的な調達コスト上昇圧力がかかります。主要国政府はエネルギー安全保障への影響を注視していますが、調達の構造的なコスト上昇が数ヶ月は続く可能性があります。
ホスト:
では、今後のシナリオを整理していただけますか?
ゲスト:
2つのシナリオを提示します。シナリオAは比較的早期の停戦合意が実現するケースです。しかしこの場合でも、電子妨害の残存、保険市場の段階的な回復、乗組員の安全確認プロセスという3段階が必要になります。
アルハブトール・リサーチのレポートが示唆しているように、仮に軍事的緊張が12週間で緩和されても、通行の正常化までには少なくとも12週間の時間差が生じる可能性があります。市場が期待する停戦発表→即座の供給回復という単純なシナリオは、電子妨害問題が解消されない限り実現しにくい。
ホスト:
そしてシナリオBはどういう状況ですか?
ゲスト:
シナリオBは停戦後も電子妨害が一定期間継続するケースです。この場合、JMICのGNSS障害報告件数が減少に転じない限り、保険市場も通行再開の判断を先送りします。
このシナリオでは、中国船籍、ロシア船籍を中心とした非西側タンカーのみが実質的に通行できるという状態が長引きます。ケプラーの分析が示すように、この状況はロシアの競争上の地位を改善し、インド・中国のロシア原油依存を構造的に深める方向に働きます。エネルギー地政学の地図が抜本的に塗り替えられるリスクがあります。
ゲスト:
どちらのシナリオでも注目すべき先行指標は、JMICの日次障害報告件数、P&Iクラブによる戦争リスクカバーの再開通知、タンカーのAIS復帰率の3点です。
ホスト:
ありがとうございました。えっと、正直言うと今回調べれば調べるほど「停戦したらすぐ落ち着くだろう」という世間の雰囲気と実態の乖離がすごく大きいと感じましたね。
ゲスト:
そうなんですよ。ニュースは物理的な出来事を追うので、爆発があった、攻撃が止まった、停戦交渉が始まったという話になりがちなんですが、電子妨害って目に見えないし地味だから扱われにくい。でもこれ、停戦後も装置を置いておくだけで継続できるんですよね。
物理的な戦争は終わっても電子戦は静かに続くみたいな感じですよね。保険市場が止まっていたら船は動けないわけで、そっちの方が実際の封鎖より効果的じゃないかという気すらしてきます。
まさにケプラーがその表現を使っていましたね。物理的な封鎖と保険撤退は結果的に同じだと。今回のケースで一番怖いのは、停戦というニュースで安心して次の話題に移った瞬間に、水面下でこの構造が続いているというシナリオで、それを数週間後に再確認することになる可能性はかなり高いと思っています。
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