西側諸国がBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、及び新加盟国)を「恐れる」または警戒する理由は、経済的、地政学的、文化的、さらにはイデオロギー的な観点から多岐にわたります。BRICSの台頭が西側諸国に与える影響を分析し、その背景、具体的な要因、潜在的リスク、そしてBRICSの限界についても掘り下げます。
BRICSは2001年にゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニールが提唱した経済圏の概念(当初はBRIC)から始まり、2010年に南アフリカが加わって現在の形になりました。2023年のヨハネスブルグサミットでは、アルゼンチン(後に辞退)、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)が新たに加盟国として招待され、2024年1月から正式にBRICS+(ブリックスプラス)として拡大しました。この拡大により、「BRICSは世界人口の約46%、世界のGDP(PPPベース)の約37%、世界の石油生産量の約40%を占める」までに至り、経済的・地政学的な影響力を飛躍的に高めています。
西側諸国、特に米国、欧州連合(EU)、日本を中心とするG7諸国は、BRICSのこの急速な拡大とその潜在的な影響力に警戒心を抱いています。西側がBRICSを「恐れる」理由は、単なる経済競争を超え、「既存の国際秩序」や「西側主導のルールに基づくシステム」への挑戦と見なしているためです。以下に、具体的な理由を詳細に解説します。
BRICS諸国は、経済規模と成長率において西側諸国を上回る勢いを持っています。特に中国は世界第2位の経済大国であり、購買力平価(PPP)ベースでは米国を既に超えています。インドも2030年までに世界第3位の経済大国になる見込みです。BRICS全体のGDPは、2023年時点でG7に匹敵する規模に近づいており、新興国の経済的台頭は、グローバル経済の重心を西側から新興国へとシフトさせています。
西側は、この経済的影響力の増大が、G7やOECDが主導してきた自由市場経済やグローバル貿易のルール(例:WTO)に挑戦するものと見ています。特に、BRICSが新たな経済圏を形成することで、西側の企業や市場がアクセスを制限される可能性が懸念されます。
BRICS諸国は、米ドルが世界の基軸通貨である現状に対する明確な対抗意識を持っています。米ドルは、国際貿易、債務決済、準備通貨として支配的であり、これが米国の金融覇権を支えています。しかし、BRICSは以下のような動きを通じてドル依存からの脱却(デドルの推進)を進めています:
西側、特に米国は、ドル覇権の弱体化が金融制裁の効果(例:ロシアやイランへの制裁)を低下させ、米国のグローバルな影響力を損なうと懸念しています。BRICSのデドル化の動きは、西側の金融支配に対する直接的な挑戦と見なされています。
BRICSには、米国や欧州と地政学的に対立する国(特に中国とロシア)が含まれており、西側はBRICSを「反西側ブロック」として警戒しています。以下はその具体例です:
西側は、BRICSが単なる経済協力の枠組みを超え、反西側の地政学的連合に発展する可能性を警戒しています。特に、BRICSがグローバル・サウスのリーダーとして、反西側のイデオロギーを結集させるプラットフォームになることが懸念されます。
BRICSは、グローバル・サウス(発展途上国や新興国)の代表として、国際的な発言力を強めています。2023年のBRICSサミットでは、40カ国以上が加盟やパートナーシップに関心を示し、BRICSが西側主導の国際機関(国連、IMF、世界銀行など)に対する代替プラットフォームとなる可能性が浮上しています。
西側は、BRICSがグローバル・サウスの不満を吸収し、西側主導の国際秩序を弱体化させる可能性を懸念しています。特に、国連安保理の常任理事国(米英仏)に対する改革要求が強まれば、西側の影響力低下が現実となるかもしれません。
BRICSの拡大により、エネルギーと天然資源の支配力が飛躍的に向上しています。特に、サウジアラビア、UAE、イランの加盟により、BRICSは世界の石油・ガス生産の約40%を掌握。以下はその影響です:
西側は、エネルギーと資源の支配がBRICSに集中することで、経済的・戦略的依存度が高まるリスクを懸念しています。
西側がBRICSを警戒する一方で、その「恐れ」には誇張や誤解も含まれています。以下に、BRICSの限界と西側の認識のギャップを分析します。
BRICSは単一のブロックではなく、メンバー間の利害対立が存在します。以下はその例です:
これらの矛盾により、BRICSが西側に対する統一戦線を形成するのは困難です。西側の「反西側ブロック」への懸念は、BRICSの潜在力を過大評価している可能性があります。
西側メディアや政策立案者は、BRICSを冷戦型の「敵対勢力」として描く傾向がありますが、BRICSの目的は経済協力や多極化の推進にあり、必ずしも西側との対立を主眼とするものではありません。BRICS諸国は、西側との経済関係(例:中国の米国債保有、インドのIT輸出)を維持する必要もあり、完全な対立は現実的ではありません。
西側諸国は、BRICSの台頭に対し、以下のような対応を取っています:
今後、BRICSがさらに拡大し、グローバル・サウスのリーダーとしての地位を確立すれば、西側は国際秩序の再編を迫られるでしょう。しかし、BRICSの内部矛盾や西側の経済力・技術力の優位性を考慮すると、短期的な「脅威」は限定的です。長期的な視点では、西側はBRICSとの対話や協力を模索し、多極化する世界での共存を模索する必要があるでしょう。
西側諸国がBRICSを警戒する理由は、経済的影響力の増大、ドル覇権への挑戦、地政学的対立、グローバル・サウスの結集、エネルギー・資源支配の強化に集約されます。これらは、西側主導の国際秩序や経済システムに対する挑戦と見なされ、特に米国やEUは、影響力の低下や安全保障リスクを懸念しています。
しかし、BRICSの内部矛盾や多様なアジェンダは、その結束力を制限し、単一の「反西側ブロック」として機能する可能性を低減させています。西側の「恐れ」は、BRICSの潜在力を過大評価した側面もあり、冷戦型の対立構造ではなく、多極化する世界での競争と協調の枠組みで捉えるべきです。西側は、BRICSの台頭を「脅威」として対抗するだけでなく、グローバルな課題(気候変動、経済格差など)での協力を模索することで、国際秩序の安定を図る戦略が求められます。