日本が世界経済を主導するカギとなる分野

はじめに

世界経済は2025年現在、地政学的緊張の高まり、サプライチェーンの分断リスク、気候変動への対応、技術革新の加速といった複合的な課題に直面しています。世界銀行の予測によれば、世界経済成長率は2025年から2026年にかけて2.7%で安定すると見込まれるものの、これは貧困緩和と開発目標達成に必要な水準を下回っています。特に途上国では、債務負担、投資と生産性の伸び悩み、気候変動コストの上昇といった逆風が強まっています。

このような状況下で、持続可能な経済成長を主導するためには、特定の戦略的分野への集中的な投資と技術革新が不可欠です。本報告書では、半導体・先端電子部品技術、AI・量子コンピューティング、安全保障技術、エネルギー安全保障関連技術、生産性革命技術の五つの核心分野に焦点を当て、その現状分析と具体的な実行案を提示します。これらの分野は相互に密接に関連し、全体として世界経済の将来を形作る基盤となるでしょう。

1. 半導体・先端電子部品技術:世界供給網の核心技術として不可欠

現状分析

半導体はもはや「産業の米」と呼ばれ、自動車、家電、医療機器から国防システムに至るまで、あらゆる現代産業の基盤を支えています。2025年後半の時点で、半導体業界は新素材開発とAI向け需要の拡大という二つの大きな流れに牽引されています。例えば、住友金属鉱山は粒の大きさが100ナノメートルの耐酸化ナノ銅粉を開発し、次世代パワー半導体の接合材として2026年度の量産を目指しています。このような素材革新は、半導体の性能向上と微細化に不可欠な進歩です。

同時に、生成AIの普及は半導体需要の構造変化をもたらしています。キオクシアホールディングスは北上工場の新工場棟を稼働させ、AI向け需要が拡大すると見込まれるNAND型フラッシュメモリーの供給を強化しています。富士フイルムは先端半導体の組み立て工程で使用される研磨剤の新製品販売を開始するなど、関連素材メーカーもこの潮流に対応しています。

実行可能な具体案

2. AI(人工知能)・量子コンピューティング:次世代技術革新の基盤

現状分析

AI技術は従来のツール型アシスタントから、自律的に計画を立て行動する「エージェント型AI」へと進化しています。これらのシステムはユーザーが設定した目標に対して主体性または半主体性を持って行動でき、適応性の高いソフトウェアとして仮想労働力としての活用が期待されています。しかし、その実用化には信頼性の確保や適切な制御機能の実装といった課題が残されています。

量子コンピューティング分野では、誤り耐性量子コンピューターの開発が着実に進展しています。2025年現在、主要な開発企業や研究機関は量子ビットの数を増やすだけでなく、エラーを検出し修正する「量子誤り訂正」技術に注力しており、超伝導量子ビットを用いたシステムではコヒーレンス時間が昨年比で20%延長され、より複雑な計算が可能になりつつあります。量子コンピューティングは将来100兆円(約670億ドル)を超える産業を生み出すポテンシャルを持つと見られており、各国で開発競争が激化しています。

実行可能な具体案

3. 安全保障技術(防衛技術、宇宙・サイバーセキュリティ):国際政治の不確実性が高まる中の生命線

現状分析

国際安全保障環境は、地政学的緊張や新興国の台頭、国際秩序の変動によって厳しさを増しています。特に注目すべきは、AIの進化により偽情報(ディスインフォメーション)の脅威が急速に高まっている点です。世界経済フォーラムは2024年の主要な脅威として偽情報を挙げ、企業の10社に1社がディープフェイク攻撃の標的となっています。

宇宙領域では、各国が監視衛星や宇宙ごみ除去技術の開発を進めており、宇宙空間の安全保障体制強化が急務となっています。サイバー空間では、従来の防御的なセキュリティから、積極的な脅威検知・対応への転換が求められています。

実行可能な具体案

4. エネルギー安全保障関連技術(原子力の安全活用、新エネルギー効率技術):安定供給と経済活動の基盤

現状分析

日本のエネルギー安全保障は深刻な課題に直面しています。総エネルギー供給量の87%が輸入に依存しており、そのうち85%が化石燃料(石炭26%、石油38%、液化天然ガス21%)で占められています。この依存度は日本を世界第4位のエネルギー輸入国にしており、国際情勢の変動や海上輸送路の混乱に対して極めて脆弱です。

日本政府のエネルギー政策はS+3E(安全性、安定供給、経済効率性、環境適合)を柱としており、原子力の安全活用はこのバランスを実現する上で重要な選択肢です。また、エネルギー効率技術の革新は、需要側での対策として同樣に重要です。

実行可能な具体案

5. 生産性革命技術(自動化・ロボット技術・デジタル技術を活用した業務・社会・生活の革新的な変化や改革):労働力減少を補い国際競争力を確保

現状分析

世界経済の成長鈍化、特に途上国の成長見通しの低迷は、生産性向上の重要性を浮き彫りにしています。日本を含む多くの国で労働力人口の減少が進む中、自動化・ロボット技術・デジタル技術の活用は、労働力不足を補い国際競争力を維持する上で不可欠です。

2025年現在、生産性革命を推進する技術として、IoT、ロボット工学、AIの産業応用が注目されています。また、ブロックチェーン技術を活用した業務プロセスの効率化も新たな段階に入っています。例えば、SWIFTと30行以上の大手銀行は、ブロックチェーンを用いた国際決済の即時実行システムの構築に協力しており、これは国際銀行取引の近代化に不可欠な進展です。

実行可能な具体案

結論

世界経済を主導するカギとなる五つの分野—半導体・先端電子部品技術、AI・量子コンピューティング、安全保障技術、エネルギー安全保障関連技術、生産性革命技術—は、それぞれが独立して発展するのではなく、相互に連関しながら全体としての競争力を決定づけます。例えば、半導体の進歩はAIと量子コンピューティングの発展を支え、それらが生産性革命を推進し、その基盤としてエネルギー安全保障が不可欠という相互依存関係にあります。

これらの分野で持続可能な優位性を確立するためには、単なる技術開発ではなく、いくつかの横断的な戦略的アプローチが不可欠です:

第一に、官民連携の深化が極めて重要です。半導体におけるキオクシアの取り組みや、SWIFTによる銀行間国際決済システムの革新のように、政府の政策的支援と民間の技術力・機動性を結合したモデルが成功の鍵となります。

第二に、国際協力と戦略的自立のバランスを考慮する必要があります。ロームとインフィニオンテクノロジーズの連携や、JSRとラムリサーチのクロスライセンス契約にみられるように、特定の国や技術に過度に依存しない、強靭で多様なサプライチェーンの構築が急務です。

第三に、人材育成システムの抜本的改革が不可欠です。立命館と熊本大学の連携のような産学協力の強化、量子プログラミング言語の教育、AIガバナンスの専門家育成など、次世代の技術革新を担う人材の育成に早期から取り組む必要があります。

最終的に、世界経済の将来は、これらの核心分野への投資をいかに効果的に行い、技術革新を持続可能な成長に結びつけられるかにかかっています。厳しい国際環境と国内の構造的制約に直面する日本を含む世界各国にとって、従来の発想を超えた革新的なアプローチと、長期的視点に立った戦略的な投資が、未来の繁栄と安全保障を決定づけるでしょう。