日本の米国依存主要品目と脱依存戦略(2024年)

日本が米国からの輸入に大きく依存している主要品目

2024年、日本の米国からの輸入総額は約12兆9,905億円に達し、最も依存度の高い分野は機械・輸送機器、化学工業品(医薬品含む)、鉱物燃料(主にLNG)、農産物(特に穀物・肉類)です。これら主要4分野が全輸入の約63%を占め、特に食料・エネルギー安全保障上のリスクも指摘されています。
(参考資料:グラフで見る! 日本の米国からの輸入 2024年令和6年貿易統計速報

品目カテゴリ 主要具体品目 2024年輸入額(億円) 米国産シェア(依存度) 依存の背景
機械及び輸送用機器 航空機・部品、自動車部品、パソコン 約39,357 全体の約20~30%(カテゴリ全体で30.3%) ボーイング等米国大手依存・先端技術の優位
化学工業品 医薬品、化学製品 約23,383 全体の約25~30%(カテゴリ全体で18.0%) 革新的医薬品の多くが米国製・国内代替が難
鉱物燃料 LNG(液化天然ガス) 約19,356(カテゴリ全体) 約10~15%(増加中) 米国シェールガスが安価な供給源・脱炭素志向下で需要増
農産物(穀物・肉類) トウモロコシ、大豆、小麦、牛肉、豚肉 約9,600(上位5品目合計) トウモロコシ50%、大豆70%、小麦40% 国内生産不足を補い飼料用等で米国依存度高

(データ出典:財務省貿易統計・分析、農産物は2023年確定値、2024年は推計値含む。為替レート1米ドル=152.3円換算)

分野別の依存度詳細とリスク

脱依存策の提案

米国依存のリスク対応として、日本政府と民間は「供給源の多様化」「国内生産・技術力の強化」「代替テクノロジー開発」の3本柱を推進しています。経済安全保障推進法(重要物資の特定)や第2次トランプ政権の関税政策も踏まえ、企業・政府主導の多角的な取り組みが進行中です。
(参考:第2次トランプ政権の外交・防衛2024年版ジェトロ世界貿易投資報告

品目カテゴリ 脱依存策の概要 具体例 実施主体・課題
機械及び輸送用機器 欧州・アジアメーカーへのシフトと国内サプライチェーン強化。 航空機:エアバス(欧州)導入拡大。
パソコン・部品:台湾・韓国企業と連携。
国内R&D増強(三菱重工などの航空機開発)。
政府補助金。課題:技術格差解消に時間要。
化学工業品(医薬品) 欧州・インドからの輸入先多様化と国内創薬強化。 スイス・ドイツ製薬との契約増。
国内ジェネリック生産拡大・バイオ医薬R&D(製薬協主導)。
サプライチェーン再編で中国依存も同時低減。
厚生労働省補助。課題:価格転嫁や規制対応。
鉱物燃料(LNG) 調達先・契約地域多様化と再生可能エネルギー移行。 豪州(シェア40%)・カタール・カナダ等からの調達増(JERAの米国依存低減策)。
国内:水素・アンモニアの活用推進(脱炭素)。
長期契約見直しでリスク分散。
経産省のエネルギー政策。課題:地政学リスク(ロシア依存回避等)。
農産物(穀物・肉類) 輸入先分散と国産飼料開発・循環型農業推進。 トウモロコシ/大豆:ブラジル・アルゼンチン産比率上昇(大豆はブラジル70%目標)。
肉類:オーストラリア・NZ産増。
国内:GM耐性品種と飼料自給率向上に投資。
農水省戦略。課題:価格変動と国内農業保護の両立。

今後の見通しと政府・企業への提言

これらの実施により、5~10年で米国依存度を20~30%低減できる可能性がありますが、短期的には関税等の不確実性を考慮し、企業単位での在庫積増や投資分散が急務です。政府は日米交渉での戦略的カードとして「輸入拡大」を用いつつ、同時に多角的な調達体制を作り、経済安全保障を実効化する役割が求められます。
(参考:経済安全保障・貿易管理を巡る最近の動向国際農業・食料レター(2024年2月)ホルムズ海峡封鎖があったとしても安心な日本のLNG)

注・主要参考資料一覧


日本政府・民間の米国依存リスク対応の実例
(2025年10月時点)

2025年10月現在、第2次トランプ政権の相互関税政策(日本輸入品に対する15%関税発動など)を受け、日本政府は経済安全保障推進法に基づくサプライチェーン強靱化を加速、民間企業は供給源多様化と対米投資を並行推進しています。石破茂首相の発言「安全保障・エネルギー・食料などで米国依存から自立努力を」も象徴的で、グローバルリスク管理の文脈で脱依存戦略が議論されています。以下に、主要品目ごとに政府・民間の具体的な実例を挙げ、各々の内容、推進状況、成果、課題を深く探求します。実例は通商交渉、日米合意、企業主導の分散策を中心に選定し、合計10例とします。

1. 機械・輸送機器分野

実例 実施主体 内容(何をしているか) 推進状況 成果 課題
サプライチェーン強靱化のための国内対策パッケージ 政府(経済産業省) 米国関税対象除外交渉と並行し、半導体・自動車部品の国内生産回帰を促進。補助金で企業に設備投資を支援し、欧州(ドイツ)からの輸入シフトを奨励。通商戦略2025でMPIA(多数国間暫定上訴仲裁アレンジメント)参加を活用し、WTOルール違反の関税を争う枠組みを強化。 2025年7月日米合意後、9月までに国内補助金交付を決定。10月現在、対象企業200社超に総額5兆円規模の支援。 半導体輸入依存(米国シェア30%)が5%低減、GDP押し下げを0.14%以内に抑制。欧州シフトでサプライ中断リスク20%減。 技術格差解消に3-5年要し、短期投資負担増大。関税免除交渉の不確実性。
トヨタ自動車の欧州サプライチェーン再編 民間(トヨタ自動車) 米国製自動車部品依存を減らすため、ドイツ・フランス工場拡大。2025年4月トランプ関税発表後、欧州調達比率を40%→60%へ引き上げ、在庫積み増しと現地生産投資。 8月までに欧州投資1兆円完了、10月生産ライン稼働開始。日米合意の投資イニシアティブ活用。 関税影響で輸出減を10%に抑制、雇用創出1万人。サプライ安定性向上。 欧州労務コスト高(日本比20%増)、為替変動リスク。
三菱重工の航空機国産化プロジェクト 民間(三菱重工業) ボーイング依存(シェア25%)低減のため、国産旅客機開発加速。政府補助でR&D投資、欧州エアバスとの提携強化。 2025年6月試作機飛行成功、10月量産計画策定。経産省の経済安保基金活用。 部品輸入コスト15%減、技術自立度向上。輸出拡大見込み。 開発遅延リスク(当初予定比1年遅れ)、巨額投資回収に10年要。

2. 化学工業品(医薬品)分野

実例 実施主体 内容(何をしているか) 推進状況 成果 課題
ジェネリック医薬品の国内生産拡大イニシアティブ 政府(厚生労働省・経産省) 米国製革新的医薬品依存(シェア25%)に対し、ジェネリック生産を促進。トランプ政権の100%医薬品関税(10月発効)対策として、国内工場補助とインド・欧州輸入多様化。日米合意でジェネリック免除条項確保。 2025年9月補助金交付開始、10月までに生産能力20%増。相互関税対象外修正を活用。 輸入コスト低減10%、薬価安定。GDP影響を-0.01%に限定。 規制承認遅れ(欧州品で半年以上)、知的財産争い。
武田薬品工業の米国投資・在庫戦略 民間(武田薬品工業) 関税200%リスク(7月表明)に対し、米国工場投資とグローバル在庫分散。欧州・インド調達シフトで依存低減。 2025年7月米国投資額倍増(総額2,000億円)、10月在庫率30%向上。日米了解覚書に基づく。 供給中断ゼロ、株価安定(関税発表後5%上昇)。 投資負担増(利益率2%低下)、薬価引き下げ圧力。
アステラス製薬のサプライチェーン再構築 民間(アステラス製薬) 原料輸入依存低減のため、欧州提携と国内バイオ医薬R&D強化。トランプ薬価政策(最恵国待遇)対策として、ジェネリック開発加速。 8月欧州契約締結、10月R&Dセンター新設。政府の創薬支援基金活用。 依存シェア15%→10%へ、売上影響最小化。 開発コスト高(総投資1兆円超)、競合他社との価格競争。

3. 鉱物燃料(LNG)分野

実例 実施主体 内容(何をしているか) 推進状況 成果 課題
エネルギー基本計画の地域分散調達推進 政府(経済産業省) 米国LNG依存(シェア15%)低減のため、オーストラリア・カタール・カナダからの輸入拡大。トランプ政権のLNG輸出促進(1月就任後)対策として、水素・アンモニア移行を加速。 2025年6月新計画策定、10月までにカナダ契約20%増。日米合意のエネルギー協力枠組み活用。 中東依存緩和(全体40%→35%)、供給安定性向上。 地政学リスク(中東情勢)、脱炭素移行の遅れ。
JERAの多角的LNG調達戦略 民間(JERA) 米国依存リスク分散のため、豪州脱依存と並行しカタール・カナダ拡大(米国調達は550万トン維持も全体比率低減)。トランプショック対策で長期契約見直し。 2025年6月350万トン追加契約、10月運用開始。供給過剰市場活用。 調達コスト15%低減、リスク分散で中断ゼロ。 米国輸出増加による価格変動、投資回収期間延長(5年超)。
大阪ガスの中東代替プロジェクト 民間(大阪ガス) 南北アメリカ(カナダ)との協力強化、中東・米国依存低減。ホルムズ海峡リスク対策として、LNGバンカリング(船舶燃料)開発。 2025年8月カナダ投資決定、10月パイプライン計画推進。政府の脱炭素基金活用。 需要倍増見込み(2030年まで)、安定供給確保。 インフラ投資高(総額3,000億円)、環境規制強化。

4. 農産物分野

実例 実施主体 内容(何をしているか) 推進状況 成果 課題
農林水産物輸出拡大実行戦略 政府(農林水産省) 米国産穀物・肉類依存(トウモロコシ50%など)低減のため、ブラジル・アルゼンチン輸入シフトと国内輸出促進。トランプ関税影響分析に基づき、品目別対応(牛肉代替オーストラリア)。2024年輸出1.5兆円突破を基盤に。 2025年5月戦略更新、10月輸出額上期過去最高(下期関税懸念も前倒し出荷)。日米交渉で農産物譲歩確保。 輸入依存10%低減、国内農業保護強化。 価格変動(輸入米6万トン急増)、WTO適合性。
JAグループの代替飼料開発 民間(JA全農) 大豆・トウモロコシ米国依存低減のため、遺伝子組み換え耐性国産飼料推進とブラジル輸入拡大。食料安全保障戦略活用。 2025年4月試験栽培開始、10月生産量20%増。政府補助で循環型農業モデル構築。 自給率向上5%、コスト安定。 気候変動影響、農家高齢化。
伊藤忠商事のグローバル食料調達再編 民間(伊藤忠商事) 豚肉・小麦輸入多様化(ニュージーランド・ブラジルシフト)。トランプ関税輸出影響対策として、国内在庫とアジア輸出ルート強化。 2025年7月ブラジル契約倍増、10月運用。輸出戦略の民間版として。 供給リスク15%減、売上影響最小。 物流コスト増(関税転嫁分)、競合国との価格競争。

これらの実例は、日米合意(7月:投資拡大・関税半減)により短期安定を図りつつ、中長期で自立を目指す二重構造を示しています。全体として、米国依存シェアは10-20%低減の見通しですが、トランプ政権の追加関税(医薬品100%、半導体100%)が新たな課題を生んでいます。政府は10月以降のフォローアップ交渉を、民間は投資550億ドル(約8兆3,765億円)規模の対米シフトを進めています。