日本の軽油・灯油・ジェット燃料の真実

前提:日本の製油所は中東産原油に特化し、アメリカ産のスイート原油には適していません。日本の石油備蓄の量はあっても「原油の質」が違うため軽油や灯油は必然的に不足します。そして一箇所の製油所は処理できる油種の“引き出し”が極端に少なく、中東サワー原油が入らなくなると“混ぜて薄める”ことしかできません。

質問:
・フーシ派がヤンブー港やサウジの東西パイプラインを攻撃し破壊する可能性はどのくらいありますか?
・また、ロシア産のサワー原油は輸入できないのですか?
・世界的な軽油不足はどれくらい深刻なのでしょうか?
・もしホルムズ封鎖、紅海封鎖、サウジ東西パイプラインの停止、ロシアのサワー原油・軽油の輸出不可が起きたときには日本の軽油生産・石油備蓄はどのような危機が訪れますか?

複合危機と日本のエネルギー脆弱性

結論を先に:あなたが想定した「複合危機」は、既にその前段階に入っています

フーシ派によるヤンブー港と東西パイプラインへの攻撃は現実に発生しており、再攻撃の可能性は極めて高いです。ロシア産サワー原油の輸入はサハリン2を除いて事実上不可能であり、世界的な軽油不足は2027年まで続く見通しです。そして、ホルムズ封鎖・紅海封鎖・サウジパイプライン停止・ロシア原油輸出不可が同時に起きた場合、日本の軽油・灯油・ジェット燃料は「量的な枯渇」ではなく「質的な枯渇」によって、極めて深刻な危機に陥ります。

以下、ご質問の順に掘り下げます。

1. フーシ派によるヤンブー港・東西パイプライン攻撃の可能性

既に攻撃は現実のものになっています

2026年9月24日、フーシ派はサウジアラビアの首都リヤドの「重要目標」と、紅海沿岸都市ヤンブーにある国営石油会社サウジアラムコの施設をミサイルとドローンで攻撃したと表明しました。サウジ主導の連合は弾道ミサイル6発を迎撃し、ヤンブー地区への攻撃を阻止したとしていますが、攻撃の頻度と規模は増大しています。

東西パイプラインについては、9月10日にイラクから飛来した複数のドローンによる攻撃を受け、予防的に操業を停止しました。パイプラインに設置された3カ所のポンプ場に損傷が確認されており、修復に5〜6週間かかる可能性があります。その後、一部再開には至りましたが、全面復旧には6〜8週間かかるとの見通しです。

再攻撃の可能性は「高い」と判断すべき理由

第一に、フーシ派はペリム島を制圧し、バベルマンデブ海峡の支配を強めています。フーシ派幹部は「紅海のバブルマンデブ海峡を完全に支配している」と明言しており、サウジの封鎖解除がなければ攻撃を拡大すると警告しています。ペリム島とハニシュ諸島を制圧したことで、フーシ派は海峡の監視・攻撃能力を大幅に強化しました。

第二に、サウジの防空能力には限界があります。サウジはムハンマド皇太子がトランプ大統領にフーシ派攻撃を要請したものの、トランプ氏は拒否したと報じられています。米国の直接介入がない限り、フーシ派の攻撃を完全に防ぐことは困難です。

第三に、フランスがヤンブー港の警備に部隊を派遣しましたが、これは「抑止」が目的であり、攻撃を完全に防ぐ保証はありません。

結論:ヤンブー港と東西パイプラインへの再攻撃の可能性は高いです。特にパイプラインは地上の固定目標であり、ドローン攻撃に対して脆弱です。

2. ロシア産サワー原油は輸入できるのか

サハリン2産原油は「例外」として輸入されている

日本はロシア産原油の輸入を2022年2月以降停止していましたが、サハリン2プロジェクトで生産された原油は制裁の適用除外とされており、ホルムズ封鎖後の2026年5月以降、太陽石油、出光興産、ENEOSなどが相次いで輸入しています。経済産業省は事前に米国側と調整し、制裁リスクがないことを確認した上で輸入を容認しています。

しかし、サハリン2産原油は「サワー原油」ではない

ここが決定的に重要な点です。サハリン2の原油は軽質・中質のスイート系であり、日本の中東サワー原油処理に最適化された製油所にとって、代替としての適合性は限定的です。ロシアの主要なサワー原油であるウラル原油やESPO原油は、制裁と輸送の問題により日本には輸入できません。

結論:ロシア産「サワー原油」の輸入は事実上不可能です。サハリン2の例外は、あくまで軽質原油の限定的な調達に過ぎません。

3. 世界的な軽油不足の深刻度

既に「歴史的極低水準」に達しています

米国の留出油(ディーゼルを含む)在庫は2026年9月11日時点で1億790万バレルに低下し、1982年の記録開始以来、この時期として最低となりました。米国エネルギー情報局(EIA)は、留出油在庫が9月に1億バレルを下回り、2026年末から2027年大半まで5年低水準を下回ると予測しています。

欧州の在庫もアムステルダム・ロッテルダム・アントワープの貯蔵拠点で5年平均を16%下回っています。

「製油所がボトルネック」という構造的問題

重要なのは、これは単なる「原油不足」ではなく、「製油所の処理能力不足」だという点です。中東とロシアからの軽油輸出が急減し、世界の軽油供給は構造的に逼迫しています。米国では小売軽油価格が初めて1ガロン6ドルを突破し、農業やトラック業界を直撃しています。

結論:世界的な軽油不足は極めて深刻であり、2027年まで解消しない見通しです。これは「一時的な混乱」ではなく、構造的な危機です。

4. 複合危機が起きた場合の日本への影響

日本の備蓄の「量」と「質」の断絶

日本は約8ヶ月分(231日分)の石油備蓄を保有しています。しかし、この数字が示す安心感と、実際に軽油が物流の現場に届くまでの現実との間には、大きな距離があります。

備蓄は原油の状態で保管されており、放出されても製油所で精製し、軽油や灯油として末端に届くまでにはリードタイムが発生します。そして最も致命的なのは、日本の製油所は中東産サワー原油の処理に最適化されており、代替の軽質原油では中間留分(軽油・灯油・ジェット燃料)の収率が構造的に低下することです。

4つの封鎖が同時に起きた場合のシナリオ

①ホルムズ封鎖:日本の原油輸入の93%がホルムズ海峡を経由しています。既に封鎖状態にあります。

②紅海封鎖:フーシ派がペリム島を制圧し、バベルマンデブ海峡を支配下に置きました。紅海ルートはホルムズの代替ルートとして機能しなくなります。

③サウジ東西パイプライン停止:ホルムズを経由せずに紅海側へ原油を送る唯一の大動脈が停止しています。修復に6〜8週間。

④ロシア産サワー原油・軽油の輸出不可:ロシアは2026年1月31日付でディーゼル燃料の一時的輸出禁止措置を導入しており、日本も対ロシア燃料輸出を全面停止しています。

日本の軽油生産・石油備蓄に何が起きるか

第一に、軽油・灯油・ジェット燃料の「構造的不足」が決定的になります。 日本の製油所は中東サワー原油を前提に設計されており、代替の軽質原油では中間留分の収率が低下します。4月の国内製油所稼働率は約67.8%に低下しています。複合危機下では、さらに稼働率が低下し、軽油・灯油・ジェット燃料の生産量は急減します。

第二に、備蓄の「取り崩し速度」が加速します。 既に国家備蓄を1ヶ月分+約20日分放出しています。複合危機が続けば、2026年11月中旬に国家備蓄が機能限界水準に達するとの予測もあります。冬季の灯油需要増加が追い打ちをかけます。

第三に、「流通段階の目詰まり」が致命的になります。 政府自身が「日本全体の石油供給は足りているが、流通段階で目詰まりが発生している」と認めています。軽油の流通が滞れば、トラック輸送が止まり、製造業の原材料供給と製品出荷が停止します。店頭に商品が並ばず、病院に医薬品が届かなくなります。

第四に、価格の「人工的抑制」が限界を迎えます。 政府は軽油を159円/Lに抑制していますが、これは税金による補助です。補助金が続く限り財政は悪化し、補助金を止めれば価格は即座に跳ね上がります。シミュレーションでは、原油が140ドルに達した場合、軽油は326円/Lになる可能性があります。

5. 全体まとめ:日本が直面する「本当の危機」

第一に、「量」と「質」は別問題です。 日本は8ヶ月分の備蓄がありますが、製油所が中東サワー原油に最適化されているため、代替原油では軽油・灯油・ジェット燃料を十分に生産できません。これが最大の脆弱性です。

第二に、「複合封鎖」は「単一封鎖」の延長ではありません。 ホルムズ封鎖があっても紅海ルートがあれば何とかなる——その前提が崩れつつあります。代替ルートの「代替」を確保することが急務です。

第三に、「補助金」は解決策ではなく「時間稼ぎ」です。 価格抑制の裏で、財政負担と供給構造の脆弱性はむしろ悪化しています。本当の解決は、調達先の多角化と製油所の設備改修という、時間とコストのかかる構造改革にあります。

第四に、日本人への「本当の危機」は既に始まっています。 軽油の流通目詰まりは物流コストを押し上げ、やがてあらゆる物価に波及します。灯油の生産は前年比17.7%減、ジェット燃料は政府が異例の優先給油要請を出す事態です。これは「遠い国の話」ではなく、日本の日常生活に直接影響する危機です。

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