日本人の「覚醒」(1/3)
16歳のための「核の傘」と自主防衛入門

アメリカ「一極覇権」の大失敗! 日本が「属国」を卒業できない本当の理由と、中国ミサイル包囲網の現実

注:この対談は4ヶ月前の放送です。現在(5月3日)の米・イスラエルvsイラン戦争はまだ起きていません。

この文章を読む前に
これは、国際政治学者の武田邦彦さんと伊藤貫さんが、いま世界で起きている大きな変化について議論した内容を、16歳の皆さんにも理解できるように再構成したものです。「ユニポーラ覇権」「バランス・オブ・パワー」など、聞きなれない言葉が出てきますが、一つひとつ説明しながら進めます。まずは肩の力を抜いて、世界の舞台裏をのぞいてみてください。

オープニング ― なぜいま「世界の変化」を学ぶのか

司会者: 皆さん、こんにちは。今日は「世界から見た日本の現状」について、二人の専門家と一緒に考えていきます。日本に強硬な外交を続ける中国は、本当は何を狙っているのか? そして、私たちが頼りにしてきたアメリカは、これからも日本を守ってくれるのか? 科学者で工学博士の武田邦彦さんと、国際政治アナリストの伊藤貫さんです。

武田: よろしくお願いします。

伊藤: よろしくお願いします。私はいま、アメリカのワシントンから中継で参加しています。

第1章 世界が急激に変わり始めた ― 何が起きているのか

武田: 私が今日、伊藤先生にぜひ伺いたいのは、「なぜここに来て、世界はこんなに急に動き出したのか」ということです。つい1〜2年前までは、ある程度この先の見通しが立っていたつもりでした。ところが、アメリカのバンス副大統領がドイツで行った演説を境に、すべてが加速したように感じます。アメリカとヨーロッパの関係がぎくしゃくし、リトアニアをきっかけに中国の台湾問題がヨーロッパ全体に飛び火した。もちろん日本でも、連日のように中国の話題です。ウクライナは和平に向けた話し合いが始まったかと思えば、「戦争が終わっては困る」という軍事産業の思惑も見え隠れする。中国経済が混乱しているという報道がある一方で、軍と政府のあいだで対立があるとも言われる。これまで中国が進めてきた「一帯一路」構想やアフリカ支援、ドイツやイタリアとの産業連携にも、批判の目が向けられ始めている。トランプ大統領の行動は相変わらず予測が難しく、AI(人工知能)が社会をどう変えるかも見えない。さらにG7(主要7カ国)のGDP合計をBRICS(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカなど新興国グループ)が追い越し、基軸通貨としてのドルの地位が揺らぐかもしれない。こんな状況のなかで、私たちは何を基準に考えればいいのか。まずそこから教えてほしいのです。

第2章 アメリカの「大失敗」 ― 冷戦後の慢心と1992年の秘密文書

一極支配はなぜ成功しないのか — 500年の歴史が証明する「多極構造」

伊藤: いま武田先生がおっしゃった混乱の最大の原因は、1991年から1992年にかけてアメリカ政府が立てた「世界戦略」が、根本的に間違っていたことです。この話は日本のメディアではほとんど報じられませんが、アメリカの専門家のあいだでは常識です。まず理解しておきたいのは、過去500年の国際政治は常に「多極構造(マルチポーラー)」で動いてきた、という事実です。「多極構造」とは、簡単に言えば「複数の大国がお互いに力を張り合い、均衡を保っている状態」のことです。17世紀初めのハプスブルク家、17世紀後半のフランス王ルイ14世、19世紀初めのナポレオン、20世紀のドイツ皇帝ヴィルヘルム2世、そしてヒトラー。彼らはみな「世界に一人の支配者になろう」としましたが、全員が失敗しました。自分の国だけが突出して強くなり、他国をすべて屈服させる――これを「ユニポーラ・ヘゲモニー(単極覇権)」といいます。歴史上、これに成功した者は一人もいません。

「歴史は終わった」という錯覚 ― 国防計画指針に書かれた本当の標的

伊藤: ところが、1989年にベルリンの壁が崩れ、1991年末にソ連が消滅すると、アメリカ人は有頂天になってしまった。政治家も官僚も学者も、「アメリカこそが世界の勝者だ」と思い込んだのです。日系アメリカ人のフランシス・フクヤマという政治学者が「歴史は終わった」と宣言しました。これからはアメリカが全世界を統治するのだから、歴史の闘争はもう終わりだ、という理屈です。そして1992年2月、アメリカ国防総省(ペンタゴン)は「国防計画指針」という秘密文書を作成します。そこには、「アメリカの競争相手はすべて叩き潰す」と書かれていました。この文書は翌月にニューヨーク・タイムズにリークされ、大スキャンダルになります。いまでもネットで読めますが、内容は衝撃的です。「冷戦に勝った以上、ロシアを押さえつけ、中国が東アジアの覇権を握るのを阻止する」。それだけではありません。「同盟国である日本とドイツには、自主防衛能力を決して持たせない。再び独立国になることを防ぐ」と、はっきり明記されていたのです。つまりアメリカは、ロシア、中国、日本、ドイツの4カ国を、永遠に「仮想敵」として押さえ込もうとしたのです。しかし、この計画は実行不可能でした。ジョージ・ケナン、ヘンリー・キッシンジャー、ケネス・ウォルツ、サミュエル・ハンティントン、ジョン・ミアシャイマーといった、アメリカが誇る一流の国際政治学者たちは口をそろえて「一極支配など無理だ。そんな実力はない。国際政治は多極構造でこそ安定する」と警告しました。にもかかわらず、ワシントンの政策決定者たちは彼らの声を無視し、「ユニポーラ・ヘゲモニー」を追求し続けたのです。

「平和の時代」はなぜ戦争だらけになったのか

伊藤: 結果は歴然としています。冷戦が終わり「平和が来る」と誰もが期待したにもかかわらず、アメリカの軍事介入の頻度は冷戦期の2倍に跳ね上がりました。「もう競争相手はいない。今がチャンスだ」とばかりに、世界中の国々に介入したのです。しかし、介入すればするほど成功率は下がり、失敗するたびにさらに介入を増やす悪循環に陥りました。その結果、シリア、リビア、バルト三国、ウクライナといった地域が次々に不安定化し、東アジアもその影響から逃れられませんでした。

伊藤: いま起きている戦争の主役は、ミサイルとドローンです。そして東アジアにおいて、中国のミサイル戦力とドローン戦力は、すでにアメリカより圧倒的に優位なのです。たとえば艦船を攻撃する「対艦弾道ミサイル」の数は、中国がアメリカの7倍。これではアメリカ海軍は怖くて中国の近くに近づけません。日本やグアムに届く「中距離弾道ミサイル」にいたっては、中国がこの地域で使える数はアメリカの数十倍です。なぜこんなことになったのか? 1992年にアメリカが「世界中を支配できる」と過信し、あちこちに手を出して武器を使い果たしたからです。この30年間、アメリカはほぼ毎年どこかで戦争を続け、ウクライナに大量の武器を送り続けました。いま、トランプ大統領が「ウクライナ支援をやめたい」と言うのは、単純に「送る武器がもう残っていない」からなのです。

第3章 日本がアメリカを批判できない「本当の理由」

800の軍事基地を抱える超大国のジレンマ

武田: 一つ質問です。アメリカは66カ国とも68カ国とも言われる数の国々と軍事同盟を結び、世界に800もの軍事基地を置きながら、それでもやっていけると判断していたのですか?

伊藤: 国防総省やCIAのなかには、いまでも優秀で現実的な人材が残っています。彼らは「こんなに基地を増やして運営し続けるのは、財政的に不可能だ」と理解しています。しかし、アメリカには「軍産複合体」と呼ばれる巨大な構造があります。武器を作る企業と軍と政治家が一体となって、戦争や紛争が続くほど儲かる仕組みです。そしてもう一つ、「ネオコン(新保守主義者)」「イスラエル・ロビー」の存在があります。「ロビー」とは、特定の利益を実現するために政治家に圧力をかける団体のことです。先ほどのフランシス・フクヤマが唱えた「歴史の終わり」も、民主主義と自由主義を広げれば戦争がなくなる、という「民主的平和論」を掲げていましたが、実態は軍事介入のための理論武装でした。さらに、イスラエルの国益のためにアメリカ軍を中東で使わせたい勢力が動きました。1996年、アメリカのユダヤ系の学者や軍事専門家がテルアビブ(イスラエルの都市)に集まり、「クリーン・ブレイク・レポート」という文書をまとめます。内容は「アメリカ軍を使ってイラク、シリア、イランを打倒する」というもの。当時のイスラエルのネタニヤフ首相は大喜びでした。そしてアメリカのクリントン政権もこの計画を受け入れ、連邦議会は1998年に「イラク体制転換決議」を可決しました。つまり、2003年のイラク戦争は、2001年の9.11同時多発テロが原因だったのではなく、1996年に計画され、1998年に議会が承認していた戦争だったのです。こうした決定の裏で、政策を動かしているのが「政治資金」です。

超富裕層の「税制抜け穴」と政治資金の闇

伊藤: アメリカの税制には大きな仕組みがあります。所得が増えれば増えるほど、合法的に税金を減らせる抜け穴が用意されているのです。たとえば、自分の収入を現金ではなく「株」で受け取れば、その株を売却しない限り、キャピタルゲイン税(株の売却益にかかる税金)は発生しません。実質的にゼロです。イーロン・マスクは個人資産が4000億ドル(約60兆円)を超えていますが、彼が支払ってきた実質的な税率はわずか1%。アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスは1.1%です。こうして浮いた莫大な資産は、政治献金として流れ込みます。2020年の大統領選挙で、メタ(旧Facebook)のマーク・ザッカーバーグは一人で450ミリオンドル(約650億円)を政治資金として投入しました。アメリカの大統領選挙では、こうした「超富裕層からの巨額献金」なしに勝ち抜くことは不可能です。そして、この巨額献金者の少なくとも4割はユダヤ系だと指摘されています。ジミー・カーター元大統領の補佐官だったハミルトン・ジョーダンは、民主党の大統領選資金の6割、共和党でも3割がユダヤ系の献金者から来ている、と証言しています。ここまで資金を依存していれば、政策がその意向に左右されるのは当然です。たとえば、ミリアム・アデルソンというイスラエルとアメリカの二重国籍を持つ女性は、トランプ大統領の選挙のたびに200ミリオンドル(約300億円)を献金してきました。トランプ氏はイスラエルの議会で彼女に向かって「あなたのおかげで私はこれができる」と公言したのです。客観的に見て、異様な関係と言わざるを得ません。

日本が「沈黙」する理由 — 73年間変わらなかった属国の構造

武田: アメリカではこうしたデータが全部、公になっています。なのに、日本ではそれを「見ないこと」にしている。なぜかというと、原因ははっきりしています。1951年から73年間、日本は外交的にも軍事的にも、事実上の「属国」だったからです。

伊藤: そのとおりです。中東の報道一つとってもそうで、イスラエルがパレスチナで行っていることに対して、朝日新聞や毎日新聞のような左派メディアのほうがまだ実態を伝えています。最も問題なのは、保守派の新聞である読売や産経が、イスラエルを擁護するような論調を崩さないことです。私は保守派の立場ですが、この問題に関しては違和感を抱かざるを得ません。

武田: つまるところ、アメリカのデータが公開されていても、日本のメディアや政府は、それを「存在しないもの」として扱ってしまう。それは結局、日本が独立国ではないからです。「アメリカに見捨てられたら生きていけない」という恐怖がある。だから、どんなに理不尽なことをされても、大手新聞社も、外務省も、防衛省も、自民党の政治家も、アメリカに文句が言えない。自分の国を自分の手で守る、という覚悟を持てなかったツケが、ここにきて回ってきているのです。


第2章のまとめ ― 16歳の皆さんへ
これまで「世界の警察官」としてふるまってきたアメリカが、じつは自らの過信と、国内の政治資金のゆがみによって、東アジアでの軍事バランスを大きく損なってきたことが見えてきたと思います。そして、日本は戦後73年間「属国」の立場に甘んじてきたために、アメリカの失敗を批判することもできず、自分たちの未来を自分たちで決める力を奪われてきたのです。次回は、こうした構造が日本の防衛力と進路にどう影響しているのか、さらに深掘りしていきます。