米・イラン戦争の深層と中東新秩序の胎動
本稿は『Can Israel & the U.S. Sustain Iran's Military Power? (w/ Alastair Crooke) | The Chris Hedges Report』(https://youtu.be/YL8rXeNkXsQ)から引用させていただきました。
Alastair Crooke(アラステア・クルーク)の経歴
アラステア・クルークが語る「誤算、ミサイル戦争、そして終末論」まとめ
1. 戦争の真の目的と誤算:迷走する米国の対イラン政策
1.1. 戦争目的の変遷と混乱
クリス・ヘッジス: ドナルド・トランプ米大統領、ピート・ヘグセス国防長官、マルコ・ルビオ国務長官らの無能さが、対イラン戦争を「まっすぐ撃てないギャング」の致命的なバージョンと化している。戦争の口実と目標は時とともに変化している。
- 核開発計画の破壊? トランプ大統領は昨年6月に「核計画は消滅した」と主張したが、今度はそれを標的にしている。
- 核兵器製造能力への懸念? スティーブ・ウィトコフ特使は、イランが「工業用核兵器級物質の製造まであと1週間」と主張。これはネタニヤフ首相らが約30年間繰り返してきた主張である。
- 政権交代? レジームチェンジが目的なのか。
- 自軍防衛? ルビオ国務長官は、イスラエルの先制攻撃決定に米国が巻き込まれたと説明。在米資産への先制攻撃を防ぐためとしている。
1.2. イラン指導部壊滅作戦とその結果
米国はイラン指導部の最高幹部を殺害した。トランプ大統領は「念頭に置いていた人物のほとんどは死んだ。今は別のグループがいるが、彼らも報告によれば死んでいるかもしれない」と認めた。しかし、これが想定していた「ベネズエラモデル」(指導者殺害→民衆蜂起→政権交代)のような短期決戦にならず、逆にイラン国民の結束を強める結果を招いている。最高指導者の殺害は、イラン国内だけでなく、イラク、バーレーンなど地域のシーア派世界にジハード(聖戦)の機運を高めている。
1.3. 誤算の連続:クウェートでの米軍機撃墜と民間人犠牲
米国の味方であるクウェートで、米戦闘機3機が撃墜された(犯人は米国かイスラエルか不明)。イランの学校への攻撃では、少女175人を含む1000人以上のイラン民間人が殺害されている。こうした中でもトランプ大統領とイスラエルの首相は、これを「解放の戦争」と主張している。
2. ミサイル戦争の実態:イランの新たな防衛パラダイム
2.1. ネタニヤフの戦略転換要求:核よりミサイル
アラステア・クルーク: 2024年12月末、ネタニヤフ首相はマール・ア・ラゴでのトランプ大統領との首脳会談で、驚くべき提案をした。「核問題は優先順位ではない。最優先事項はイランのミサイルシステムの破壊だ」と。6月の戦争後、イランは完全に新しい多層的な防衛パラダイムを構築したと警告し、このミサイル防衛網を突破できなければ、イランが核兵器を取得しても対処できなくなると訴えた。トランプ氏はこれに同意し、対イラン攻撃にゴーサインを出し、日程もほぼ設定された。
2.2. ネタニヤフの「コーシャ認証」戦略
ネタニヤフ氏はさらに踏み込み、「核合意には私がコーシャ認証を与えない。米国の右派は私のリーダーシップに従う。もし攻撃しなければ、イスラエルが先制攻撃を仕掛ける。あなたは我々に加わるしかない」と事実上の強制を行った。これがルビオ長官の認めた「戦争の強制」の背景にある。
2.3. イランのミサイル戦略:旧式兵器で迎撃網を消耗
現在イランが使用しているのは、2012~2013年製の非常に古いミサイルと単純なドローンである。その目的は、イスラエルと湾岸諸国の迎撃能力を消耗させることにある。湾岸諸国の迎撃能力はほぼゼロに近づいている。
- 湾岸のレーダー網破壊: イランのドローンとミサイルは、湾岸の米軍基地、特に第5艦隊を擁するバーレーンを標的に、1基が10億ドル(約1,555億円)以上する超高性能レーダーを計画的に破壊。これにより、米国とイスラエルは「戦闘空間の可視化」能力(ISR:情報・監視・偵察)の重要な一部を失い、実質的に「盲目」状態に陥っている。
2.4. 新型迎撃不可能なミサイル「Kheibar Shikan 4」
イランは旧式ミサイルから、より新しいKheibar Shikan 4のような極超音速ミサイルに移行しつつある。
- 性能: マッハ14で飛行。
- 弾頭: 80発の誘導可能な子弾頭を搭載。各子弾頭は約20kgの炸薬を持ち、半径15~16kmの範囲に80門の砲兵隊による一斉射撃のような壊滅的打撃を与える。
- 迎撃不可能性: イスラエルはマッハ4以上のミサイルを撃墜できないと見られる。イスラエルは1発のイランミサイルを迎撃するために、8~10発の迎撃ミサイルを消費しており、在庫は枯渇しつつある。
3. 地政学的変動:米国のヘゲモニー崩壊と新たな連携
3.1. 「ISR」能力の供与と戦力の非対称化
ウクライナ戦争でNATOがウクライナに提供した「ISR」と同様の能力が、何者かによってイランに供与された可能性が高い。これにより、イランは精密な戦闘地図を得て、米国の中東における戦力投射能力を根本から覆しつつある。
3.2. イランの分散型ミサイル網:枯渇しない抑止力
イランの長距離ミサイルは、イラン全土57の地区に分散された地下サイロに格納されている。これらのサイロは、中央の指揮統制が破壊されても、各地区に事前に与えられた計画に基づいて自律的に発射を継続できる「デッドハンド」機能を持つ。これは、たとえテヘランや軍事司令部が破壊されても、戦争を継続しイスラエルを破壊するという、イランの確固たる抑止力の具現化である。
3.3. クルド人利用とイラン分割計画
イスラエルは、イランをクルド人、バルーチ人、アゼリー人などの民族別に分割し、それぞれに憲法を準備するなど、「分割・混乱」による弱体化を図る長期的計画を持つ。一方、米国の当面の目的は単純な政権交代であり、この戦略の違いは将来的な亀裂となりうる。
4. 戦争の拡大と経済的・戦略的影響
4.1. ホルムズ海峡の封鎖と米海軍の脆弱性
トランプ大統領は米海軍にホルムズ海峡でのタンカー護衛を命じるとしているが、海峡の幅はわずか21kmである。イランは機雷(自律型)、高速艇、潜水艦発射型対艦ミサイルなどで容易に封鎖でき、米艦隊を「七面鳥撃ち」にできる。実際、インド訪問中の無武装のイラン軍艦が米潜水艦の魚雷攻撃で撃沈され、100名以上の水兵が死亡する事件が発生。ホルムズ海峡の緊張は極限に達している。
4.2. エネルギー市場とドル体制への打撃
- エネルギー危機: 世界の石油・ガスの多くが通過するホルムズ海峡封鎖で、カタールのLNG輸出は停止。欧州のガス備蓄は過去最低であり、ロシアも欧州へのガス供給停止を示唆し、欧州経済は深刻な打撃を受ける。
- 資本逃避とドル離れ: 湾岸はもはや安全な投資先と見なされず、アジアの投資家はドバイなどから資金を引き揚げ、円や上海の現物金市場(米国債の代替として)に逃避しつつある。ドル体制の基盤が揺らぎ始めている。
4.3. 米軍の信用失墜と中東戦略の破綻
湾岸の米軍基地は壊滅的な打撃を受け、サウジアラビアなどは迎撃ミサイルをイスラエルに優先供給され、自国防衛に不安を抱いている。米国が提供する安全保障の信頼性は地に墜ちた。
5. イスラエルの国内的危機と「終末論」の影
5.1. 世俗国家と終末論的王国の内戦
イスラエル内部では、世俗的な軍事エリート・司法当局と、ベングビール、スモトリッチらに代表される終末論的・メシアニズム(救世主信仰)を信奉する宗教的右派・入植者勢力との間で、事実上の内戦状態にある。彼らはハルマゲドン(最終戦争)を歓迎し、それを通過儀礼としてユダヤ人の救済がもたらされると信じている。ネタニヤフ政権はこの後者勢力に牛耳られつつあり、これが戦争拡大の原動力となっている。
5.2. 誤認の惨劇:イラン理解の欠如
米国とイスラエルの指導者層には、数千年的なペルシャ文化と伝統を持つイランに対する深い理解と共感が完全に欠如している。彼らはイラン人を「人間以下」の扱いをし、その複雑な社会構造や精神性をまったく理解していない。最高指導者でさえ深い教養人であり、その行動原理には「国民と文明のための犠牲」という概念が根付いている。
「彼(最高指導者)は86歳で半身不随だが、尊厳は持っている。それはイラン国民から与えられたものだ。私は喜んでイランの人々のために命を捧げる」— 故・イラン最高指導者の言葉(クルーク氏による引用)
6. パレスチナ問題への影響と終戦条件
- パレスチナ人追放のリスク: スモトリッチらは戦争を口実に、ガザやヨルダン川西岸からのパレスチナ人追放を狙っている。
- イランの停戦条件(予測): 現時点では交渉は困難だが、もし和平の機運が生まれるなら、イランは対イラン制裁の完全撤廃と、ガザ・ヨルダン川西岸からのイスラエル軍撤退を要求するだろう。イランにとってパレスチナ支援は、その倫理的世界観の核となる要素だからだ。
7. 現在の日付時点の補足ポイント(2026年3月7日時点)
この対談以降、状況はさらに複雑かつ深刻化しています。
- 戦争の長期化と泥沼化: 予想に反し、戦争は1年近くにわたり長期化。イランの「長期戦」戦略が功を奏し、米・イスラエルの消耗が顕著です。米国防総省の発表と現場の乖離はさらに拡大し、国内での戦争支持率は急落。中間選挙でトランプ政権は大打撃を受け、議会は大統領の戦争権限を制限する動きを強めています。
- イスラエルの分裂加速: 軍需品の枯渇と経済悪化に直面するイスラエルでは、世俗派と宗教右派の対立が先鋭化。予備役将校の召集拒否が相次ぎ、軍の指揮系統そのものが機能不全に陥りつつあります。「ユダヤ王国」と「イスラエル国家」の内戦は、もはや比喩ではなく現実のものとなりつつあります。
- 新たな安全保障枠組みの模索: 米国の安全保障に対する信頼が失墜する中、サウジアラビアやUAEなどの湾岸アラブ諸国は、イランとの直接対話や、ロシア・中国を含む新たな安全保障の枠組みを模索し始めています。中東は「米国一極集中」から「多極化」へと大きく舵を切りつつあります。
- グローバルサウスの台頭とドル離れの加速: インドがイラン軍艦を招待した事例は、グローバルサウス諸国が米国の圧力に必ずしも従わないという「戦略的自律性」の象徴となりました。上海協力機構(SCO)やBRICSを軸に、貿易決済における脱ドル化、特にデジタル通貨や金を裏付けとした決済システムの構築が現実味を帯びてきています。
西側とイラン・ロシア・中国の言い分
- 米国・西側の言い分: イランの核開発と地域の不安定化行為、そして米軍・米国人への攻撃を抑止するための自衛行動であると主張。イラン政権の打倒が中東に平和をもたらすと信じている。
- イラン・ロシア・中国の言い分: 米国とイスラエルによる一方的な侵略であり、主権国家に対する明白な違反であると非難。特にイランは、自国の防衛能力の向上は抑止力のためであり、地域の安定を損なうのは米国の無条件のイスラエル支持と軍事介入であると主張。ロシアと中国は、自国への経済封鎖・包囲網の一環としてこの戦争を位置付け、イランへの政治的・経済的支援を強化している。
この戦争は、単なる地域紛争を超え、米国主導の一極世界秩序の終焉と、新たな多極的世界秩序の誕生を象徴する歴史的な転換点となっている可能性が高いです。