米国の核バンカーバスターについて
米国は、地下の強化された目標(例:軍事バンカーや地下施設)を破壊するために、核および従来型のバンカーバスター兵器を保有しています。ここでは、主に核バンカーバスター(地中貫通兵器、EPW)に焦点を当て、代表例であるB61-11について説明します。
核バンカーバスターとは
核バンカーバスターは、土壌、岩、コンクリートを貫通し、地下で爆発する核弾頭です。地下爆発により地震のような衝撃波を発生させ、地下施設を破壊します。これにより、地上爆発よりも少ない爆発力で強化された目標を破壊でき、放射性降下物の発生も軽減されますが、完全には防げません。
B61-11 核バンカーバスター
- 概要:1997年から運用中のB61-11は、B61核爆弾シリーズの地中貫通型改良版です。米国の現行核バンカーバスターの主力です。
- 仕様:
- 爆発力:1キロトン(TNT換算1,000トン)から400キロトンまで可変(参考:広島の原爆は約15キロトン)。
- 貫通能力:数十フィート(具体的な深度は機密)。硬い岩盤では効果が限定的。
- 投下手段:B-2スピリットステルス爆撃機などにより投下。
- 目的:地下の司令部や核施設を破壊。地下爆発により、衝撃波で広範囲の構造物を崩壊させる。
- 利点:
- 従来の核兵器より低い爆発力で同様の効果を発揮。
- 地上爆発に比べ放射性降下物を軽減。
- 欠点と批判:
- 放射性降下物:地下爆発でも放射性塵や蒸気が発生し、環境・健康リスクがある。
- 核拡散:核バンカーバスターの使用は核兵器使用の閾値を下げ、他国の開発を誘発する恐れ。
- 倫理・外交問題:核兵器使用は国際的な非難を招く。
歴史的背景と開発
- ロバスト核地中貫通兵器(RNEP):2000年代初頭、B61-11の限界(特に硬い岩盤での貫通力不足)を克服するため、RNEP計画が進められたが、2005年に議会の反対で中止。
- 退役兵器:9メガトンのB-53核爆弾は、B61-11の登場により退役。過去にはMark 8やW8(1950年代)も地中貫通能力を持っていたが、現在は非運用。
従来型バンカーバスターとの比較
米国は、核バンカーバスターに加え、GBU-57大規模貫通爆弾(MOP)などの従来型バンカーバスターも保有しています。以下は比較の概要です。
- GBU-57 MOP:
- 重量:約13,600kg(爆薬6,000ポンド)。
- 貫通能力:土壌で約61m、強化コンクリートで約7.6mを貫通(B61-11より深い)。
- 投下手段:B-2スピリット(1機につき2発搭載)。
- 使用例:2025年6月22日、イランのフォルドー、ナタンズ、イスファハンの核施設攻撃で初使用。
- 利点:核兵器でないため、放射性降下物や外交問題を回避。深い単一目標に有効。
- 欠点:最深部の施設破壊には複数攻撃が必要な場合がある。
- 主な違い:GBU-57は運動エネルギーと強化鋼で単一目標を破壊。B61-11は核爆発で広範囲の地下施設を衝撃波で破壊。
現在の状況と戦略的役割
- B61-11:米国の唯一の運用中核バンカーバスター。極端なシナリオでの使用に限定。
- 戦略的抑止:イランや北朝鮮のような深い地下核施設を持つ国への抑止力。米国はGBU-57をイスラエルなどに供与せず、予防攻撃を抑制。
- 最近の動向:2025年のGBU-57使用は、従来型兵器の能力を示すが、B61-11は従来型で対応できない場合の最終手段として維持。
環境・地政学的影響
- 環境リスク:核バンカーバスターは放射性降下物を発生させ、土壌や空気を汚染。例:フォルドーでの核攻撃はウラン六フッ化物ガスの放出リスクがあるが、地下爆発で拡散は抑えられる可能性。
- 地政学的影響:核バンカーバスター使用は紛争を劇的にエスカレートさせ、報復や国際非難を招く。従来型攻撃(2025年)でも、核汚染や地域不安定化が懸念される。