第二次世界大戦後に米国が主導してきたルールベースの国際秩序は、もはや前提ではなくなった。トランプ政権は国際協調や自由貿易の軸から米国を遠ざけ、「力による支配」の時代へと回帰しつつある。多国間のルールは弱体化し、代わりに「一国主義」と「ディール(取引)重視」が外交の主流となった。
トランプ政権は同盟国に対して一方的な関税を賦課し、日米安保条約を「不公平」と批判し、ウクライナ支援を停止した。同盟国であること自体がもはや保護の保証ではなくなった。「同盟国だから」という理由で米国が動くことはない——これが新たな現実だ。2026年8月には、米韓合同軍事演習の縮小を指示するなど、同盟関係に対する一貫しない姿勢が改めて露呈した。
2026年4〜6月期の日本の実質GDPは年率1.1%増と緩やかな成長を示したものの、個人消費は0.0%減、設備投資は1.2%減と内需は依然として弱含み。さらに、中東危機による原材料高騰が自動車産業をむしばんでおり、エネルギー・資源供給の不安定化が日本経済全体に波及している。これは「ディールの時代」における日本の脆弱性を如実に示している。
米国は紛争解決に関与する意思を急速に失っている。従来の「負担分担(バードン・シェアリング)」から、同盟国自身が紛争解決に主体的に関与しなければならない「チャレンジ・シェアリング」の時代へと移行した。米国は「能力はあるが、意思がない」——これが日本が直面する根本的なパラドックスだ。
トランプ政権の本質は「トップ同士のディール」にある。安倍元首相が築いた個人的信頼関係が関税の緩和につながった教訓は今も有効だ。日本は米国に対して「何を提供し、何を得るか」を常に明確にし、交渉のテーブルで主導権を握る姿勢が求められる。ただし、個人的関係だけで関税がなくなるわけではない——その教訓を忘れてはならない。
米国がルールを放棄するなら、日本がルールベースの秩序を守る旗手となるべきだ。具体的には:
これらは米国依存を減らしつつ、日本の国際的信用を高める戦略だ。
欧州が対米自立の動きを強めているように、日本も米国抜きの選択肢を現実的に検討すべき時だ。ただし、これは「対米離脱」ではなく、「米国なしでも生き残れる力」を培うことである。具体的には:
米国がアジアへの関心を後退させる中、日本が地域の安定を主体的に担う覚悟が必要だ。フィリピンやASEAN諸国との沿岸警備隊協力の強化、南シナ海問題の国際仲裁への再提起など、米国に代わるリーダーシップを発揮する場面が増えている。
トランプ氏への追随が過ぎれば、日本外交が築いてきた国際的信用を傷つける。「追随一辺倒では日本の国益を損なう」という認識を共有し、「主体的な判断」を貫くことが重要だ。歴代の政権しかり、高市政権は特にこれが顕著である。
トランプ大統領との会談では、書面による声明を出すのが得策だ。口頭の約束は翌日には反故にされる。合意事項はすべて文書化し、公表可能な形で記録に残す——これが「ディールの時代」における基本的な自衛策である。
日本は米国内の直接投資残高で5年連続世界最大(2023年は7,833億ドル)。この経済的プレゼンスは、単なる依存関係ではなく、交渉力を生む資産だ。米国経済への貢献を明確に可視化し、それを安全保障上のコミットメントとリンクさせる戦略が有効である。
米国と中国の二大国が対峙する中で、「ミドルパワーの結集」が新たな秩序形成の鍵を握る。日本はカナダ、オーストラリア、韓国、インド、 ASEAN諸国などと連携し、ルールベースの秩序を擁護する第三極を形成するリーダーシップを発揮すべきだ。
米国が「日本を守らない」という事態は、もはや荒唐無稽な想定ではない。台湾有事など具体的な危機シナリオにおいて、米国の関与が限定される場合の日本単独の対応策を事前に練っておくことが急務だ。欧州がウクライナ問題で経験した「米国支援の突然の停止」は、日本にとっても決して他人事ではない。
米国が国際秩序から離脱する中、国際社会の大多数の支持を得ることが新たな正当性の源泉となる。G7に常設アウトリーチ・パートナー(POP)グループを創設し、グローバル・サウスの有力国を巻き込む戦略が求められる。
トランプ政権は永遠ではない。しかし、米国の「内向き志向」は政権を超えた構造的趨勢である可能性が高い。日本は特定の政権や大統領個人に依存しない、「米国なしでも機能する」国家システムを中長期的に構築する必要がある。
米国の約束が信用できない時代——それでも日本が生き残る道は閉ざされていない。むしろ、「ルールの時代」に依存していた受動的な外交から、「ディールの時代」に適応した能動的な国家戦略へと舵を切る絶好の機会でもある。
日本に求められているのは:
「ルールの時代」が終わったからこそ、日本は「ディールの達人」としての新たな役割を創造できる。その鍵は、米国に 「依存」 するのではなく、米国と 「対等に取引」 する関係を構築することにある。そして、内需の弱さ(個人消費0.0%減・設備投資1.2%減)という構造的課題を克服しつつ、中東危機による原材料高騰という外部ショックに耐えうる強靭な経済基盤を築くことが、外交戦略と並ぶ最重要課題である。