黒海をめぐる覇権争い
ロシア、NATO、中間回廊

本稿は『CaspianReport(https://www.youtube.com/@CaspianReport)』の
「この静かな戦争が黒海をどう変えているのか」(https://www.youtube.com/watch?v=CWoYVlMuUNQ)
から引用させていただきました。

アナクリア港:ジョージアの野心

完成間近のアナクリア港は、黒海における勢力図を再定義する可能性があります。この港は国際的な供給網と接続し、ジョージアをヨーロッパとアジアを結ぶ玄関口へと変貌させることを目的としています。

オチャムチラ:ロシアの対抗拠点

沿岸をわずか1時間航行した先では、ロシアがアブハジアのオチャムチラに対抗拠点を準備しています。ここはロシアの支援を受けた分離独立派が掌握する町です。セヴァストポリやノヴォロシースクの基地とは異なり、オチャムチラはウクライナ戦線から安全な距離にあり、この立地によってアナクリアを監視し、輸送を妨害し、黒海全域に影響を及ぼすことが可能です。

NATOのルーマニア要塞化

一方でNATOも手をこまねいてはいません。2030年までにルーマニアのコンスタンツァ付近に新空軍基地を建設する計画を進めています。これは黒海におけるNATOの主要拠点となり、ヨーロッパ最大規模の基地となる予定です。建設費用は約€2.5 billion(約3,720億円)で、数千人規模の兵士、航空機、ミサイル防衛を備え、ルーマニアを同盟の前線国家に変貌させます。

静かな戦争:港、道路、鉄道

黒海地域全体では静かな戦争が続いています。港や道路、鉄道は艦隊や陸軍と同等の価値を持ちます。こうしてロシアの影響力は世代的な低水準に陥り、権力の空白が生まれています。大国がつまずけば、周縁が動き出すのです。

黒海におけるエネルギーとロシアの影響力

黒海はロシアの勢力投射の中心です。ノヴォロシースクから石油と石油製品が積み出され、パイプラインはガスをトルコ経由で欧州南東部へ送ります。

農業と「影の艦隊」

ロシアの穀物・肥料・一次産品はここを通過します。未登録タンカーによる影の艦隊も近年増え、制裁回避の道具となっています。

武力による拡張

2008年のジョージア戦争でアブハジアを掌握。2014年にはクリミアを併合してセヴァストポリを抑え、2022年にはアゾフ海沿岸を奪いました。ロシアは20年で実効支配する海岸線を3倍化しました。

トルコとNATOの均衡

トルコはNATOの要であり、ウクライナに武器を供与しクリミア併合を認めず、ブルガリアとルーマニアの近代化も支援。NATOも滑走路拡張や防空強化を進め、ロシアの黒海支配を制約しています。

ジョージアとモルドバの脆弱性

両国は分離地域にロシア軍を抱え、直接影響下にあります。ジョージアは与党がEU加盟交渉を停止。モルドバでは2025年選挙ではロシアが親ロ派を支援していました。

ロシアの弱体化と影響力低下

制裁と戦争が資源を枯渇させ、黒海艦隊はウクライナの攻撃で麻痺。トルコは海峡を閉鎖しロシアの地中海進出を遮断。
 黒海は、依然としてロシア・ウクライナ戦争の主要な戦場の一つで、地政学的緊張が続いています。トルコ海峡の制限(モンテルックス条約に基づく軍艦通過禁止)が継続中であるため、ロシアの黒海艦隊の補強が難しく、ウクライナの無人機(ドローン)攻撃がロシア側に大きな打撃を与えています。
帝国の力は衰え、周辺国が動き始めています。

地域のエネルギー再編

ブルガリア、ルーマニア、ジョージアは海底ケーブルでアゼルバイジャン電力を直結。ルーマニアは黒海ガス開発でEU有数の供給国に。トルコはサカリヤ鉱区で新供給国となります。シリアでは2024年末にアサド政権崩壊、ロシアはタルトゥスを放棄しました。

「中間回廊」の台頭

中国から中央アジア、カスピ海、アゼルバイジャン、ジョージアを経てトルコへ。7,000km短縮し輸送は2か月から2週間に。ロシア・イラン・アフガンを避け、マラッカ海峡も回避します。戦前は欧中貿易の85%以上がロシア経由でしたが、中間回廊が代替路となりました。

インフラ整備

カザフスタンは新港湾、アゼルバイジャンは空港、アルメニアは鉄道を計画。ジョージアは深海港を建設中。ブルガリアはブルガスとヴァルナ拡張、ルーマニアはコンスタンツァ製造拠点化、トルコも鉄道強化に動きます。

アナクリア港とロシアの妨害

アナクリア港は輸送量を2030年までに3百万トンから1,100万トンに増やす狙い。対抗してロシアはオチャムチラ基地を建設し、ジョージアに西傾化は戦争を招くと警告しています。

アルメニアとアゼルバイジャン

2023年、アゼルバイジャンはロシア支援の分離派と平和維持軍を追放。2025年8月、両国はワシントンで関係正常化に署名しました。これはロシアの影響低下の象徴です。

ザンゲズル回廊(トランプ回廊)

アルメニアのザンゲズル回廊は米国支援で「トランプ回廊」と改名。地域の最後のリンクとして貿易を制する鍵です。ロシアはアルメニア動揺やアゼルバイジャン資産攻撃で妨害しています。

ロシアの「分断統治」戦略

中間回廊の前進は常にロシアの対抗を伴います。分断して支配する戦略は依然としてクレムリンのお家芸です。

「静かな覇権戦争」の現在

ロシアの手は広がるが力は弱まり、ウクライナは反撃し、トルコは覇権を模索し、西側は回廊を開拓しています。この「静かな戦争」では、ある勢力が冠を握っても必ず遅すぎるチェックによって座を奪われます。